兵庫県立がんセンターTIMES

がんセンタータイムズ

消化管がんの早期発見と治療について

消化管は咽頭(のど)からはじまり、食道、胃、十二指腸、小腸、大腸、直腸を経て肛門に至ります。消化管は、食べ物をおいしく食べるという人間の基本的な生活に直結しています。しかし消化管にがんが発生すると、その基本的な生活が脅かされる場合があります。

今回はこの分野に詳しい、消化器内科 山本佳宣医師に話を伺いました。

山本医師

Q 先生のご専門は何でしょうか?

A 消化器内科で内視鏡診断や治療を担当しています。内視鏡診断は主に上部内視鏡(胃カメラ)と下部内視鏡(大腸カメラ)を行います。また治療は、早期がんの内視鏡切除、術後狭窄の治療、食道がんのレーザー治療などを専門としています。

Q 自覚症状はないのですが内視鏡検査を受けるほうがいいのでしょうか?

A 早期のがんは全くと言っていいほど症状がありません。そのため自覚症状はあてにならないと考えたほうがいいです。40代は、職場や住民検診を受けていただき、異常があった場合のみ医療機関を受診し、内視鏡検査を行うのがいいでしょう。50歳になったら、上下部内視鏡ともまず1回受けることをお勧めします。その後も上部内視鏡は数年に1回、下部内視鏡を5年に1回受けると、進行したがんで見つかることは少なくなります。

  

Q.内視鏡検査は苦痛や痛みを伴うのでしょうか?

A.上部内視鏡検査ではのどの反射があり、この反射が強い患者さんでは苦痛を伴います。また下部内視鏡では、個人差がありますが痛みを伴う場合があります。これらの苦痛や痛みを緩和するために、血管内に麻酔(眠くなる薬剤)の注射を行います。これによって、麻酔なしの場合に比較して内視鏡検査を楽に受けることができます。ただし検査後も眠気が持続することがあるため、その日は運転をやめていただいています。

Q 内視鏡機器は進歩しているのでしょうか?

A 内視鏡機器の進歩は目覚ましく、20年前のものとは全く異なります。身近なところでは、この20年で携帯電話の性能がかなり上がっていることを実感されると思います。内視鏡機器も同様で、画像は明るく、画質は鮮明になり、色調の強調、表面を拡大観察する機能が備えられました。また最も新しい内視鏡ではAIによる発見や診断ができるものもあります。そのため、従来の画質では発見できなかった早期がんが発見できるようになり、内視鏡所見のみで確信を持ってがんと診断することができます。その上で、最終診断には生検を行い、病理学的検査を行います。

Q 内視鏡治療にはどのような種類がありますか?

A 外来で可能な内視鏡治療は10mm未満の大腸ポリープの切除(ポリペクトミー)です。スネア(金属の輪)をかけて、通電(電気を流すこと)なしに勢いよく締め付けて切除します。これ以上大きなポリープや早期の大腸がんは、1泊2日や1週間程度の入院で切除を行います。この時は、生理食塩水を粘膜下に局注してスネアをかけて通電で切除する内視鏡的粘膜切除術(EMR)や、特殊な電気メスを使用して、粘膜下層を剥がしていく内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)を行います。早期の食道がんや胃がん、咽頭がんにもこのESDが行われます。ESDは、臓器が失われることなく、皮膚を切開することもない、患者さんに負担の少ない治療です。ホームページの内視鏡治療のところにも説明がありますので、ご参照下さい。

  

  早期胃がん病変      ESD前マーキング       切除検体

Q.兵庫県立がんセンターの内視鏡治療のアピールポイントは何ですか?

A.いい質問をありがとうございます。兵庫県で当院しか施行できない治療として放射線療法後再発食道がんに対する光線力学療法(PDT)があります。光感受性物質と半導体レーザーで食道がんを変性、壊死させる治療です。この治療はトピックスでも紹介しています。また、ESDは最近多くの施設で行われていますが、咽頭(のど)や放射線療法後再発の食道がん、術後吻合部近くのがんをESDで切除できる施設は限られています。今後はこのESDを十二指腸腫瘍にも拡大できるように準備を進めています。

Q.早期がんに対する治療以外に内視鏡治療はありますか?

  1. いくつかあります。例えば前立腺や子宮に放射線治療を行った場合、1-2年遅れて直腸粘膜の毛細血管から出血が続くことがあります。これを内視鏡を用いた焼灼療法で治療できます。また、消化管の手術で食道と胃、あるいは食道と小腸をつないだ吻合部が狭窄することがあります。この狭窄に対して、バルーンを用いた拡張術や、吻合部を切り取る内視鏡治療で症状を改善させることができます。他には、進行した食道がんや胃がんが原因で食事が通らなくなり、手術や抗がん剤をしないという選択をした場合でも、金属のステントを留置し、食事が食べられるようにすることも内視鏡治療のひとつです。このようにいろいろな状況で内視鏡治療が可能な場合があり、医師から提案させていただきます。

山本先生、ありがとうございました。

消化器内科

トピックス「食道癌PDT」

一覧に戻る