兵庫県立がんセンターTIMES

がんセンタータイムズ

食道がんPDT

食道がんに対する治療としてPhotodynamic therapy(PDT)を行っています。PDTは京都大学、国立がんセンター東病院、兵庫県立がんセンターを中心に全国の7施設で医師主導治験を行い、2015年10月に保険診療として認められました。PDT は口から挿入する内視鏡のみで治療ができ、手術に比較してはるかに低侵襲な最先端のレーザー治療です。PDTは食道がん放射線治療後、食道にがんが残った患者さんや再発した患者さんが対象となります。対象かもしれないと考えられる場合は、担当医にお願いをして、当院へ紹介していただいて下さい。

食道がんに対する Photodynamic therapy(PDT)

1.PDTとは

光線力学的療法;Photodynamic therapy(PDT)は光感受性物質と特定波長のレーザー照射を組み合わせたがん組織破壊治療です。光感受性物質は、静脈内投与により全身に行き渡りますが、がん組織により集積する性質を持っています。食道がんに対するPDTの場合、光感受性物質投与後4~6時間の間に内視鏡下に半導体レーザーを照射します。照射直後の反応は軽微ですが、発熱や食道の軽い痛みが数日間おこることがあります。がん組織は2週間から2ヶ月ほどかけてゆっくり変性、壊死します。そのため治療がうまくいったかどうかの判定は、治療後2~4ヶ月してからとなります。光感受性物質投与後は、1~2週間やや暗めの部屋での遮光が必要で、直射日光にあたることを1ヶ月間避けていただきます。この食道がんに対するPDTは、口からの内視鏡治療のため、体表に傷をつくることのない低侵襲な治療です。外科手術を受けるにはある程度の体力と各臓器の機能が保たれていることが必要です
が、PDTは外科手術ができない、または希望されない食道がんの患者さんでも適応になる可能性があります。一方で、PDTを受けるためには、食道がん放射線治療後であること、がんの大きさや深さについての制限があります。詳しくは次の項目の「2.PDTの対象となる患者さん」を参照下さい。

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光感受性物質

PDTはレーザー照射単独ではがん組織を破壊することができません。光感受性物質ががん組織に集積し、これに対してレーザーを照射することによりがん組織が破壊されます。光感受性物質は、MeijiSeikaファルマ株式会社のレザフィリン®を使用します。レザフィリン®は、2015年6月に厚生労働省に認可されたPDTのための新規の光感受性物質です。レザフィリン®を用いたPDTは、従来型のフォトフリン®PDTに比較して、皮膚光過敏反応を減らし、PDTの遮光期間を大幅に短縮することができました。

レザフィリン®
半導体レーザー

半導体レーザー装置の開発、製造はパナソニック株式会社が行いましたが、現在はレザフィリン®と同様にMeijiSeikaファルマ株式会社が製造、販売を行っています。このレーザー装置は、PDTに必要な664nmという特定の波長を出力することができます。PDTのためのレーザー装置を製造、販売するためには、世界基準を満たす必要がありますが、この機器はそのおおもとの世界基準として選ばれた製品です。

半導体レーザー機器
遮光

PDTで光感受性物質を投与後は、全身に光感受性物質が行き渡ります。より選択的に腫瘍に集積しますが、正常組織にも薬剤は存在します。そのような状況下で、例えば直射日光を長時間浴びると、日焼けのひどい状態、皮膚の発赤やむくみ、表皮剥離がおこります。光感受性物質レザフィリン®の投与後1~2週間は、500ルクス以下での室内で生活となります。光を制限するので、これを「遮光」と言います。500ルクスという照度は、蛍光灯の部屋ぐらいの明るさで、新聞や本を読むことができます。テレビは薄めのフィルムカバーを使用して見ることができます。室内であっても十分に明るい部屋の場合は500ルクスを越えますので、照度計を用いて入院する部屋を500ルクス以下に調節しています。直射日光は1ヶ月避けていただく必要があり、やむを得ず昼間に外出する場合は、下図のように長袖の服装に帽子、サングラス、マスク、手袋を着用していただきます。レザフィリン®は次第に体内から抜けていくため、1ヶ月を過ぎると遮光の必要はなくなります。

遮光期間の外出時の服装

2.PDTの対象となる患者さん

食道がんのPDTを受けるには、食道がんに対して放射線治療を受けていることが絶対条件となります。そのほか、病変の部位やがんの大きさや深さ(深達度)が下記の条件を満たしていることが必要となります。ご自身のがんの詳細についてよく分からない場合は、担当医に尋ねていただき、それでもPDT可能かどうか分からない場合は当院を紹介してもらって下さい。

  • 食道がんに対して放射線治療後である
  • 内視鏡的切除ができない
  • 外科手術ができない、もしくは希望されない
  • がんの深さ(深達度)が筋層を越えない
  • がんの大きさが3cm以下、かつ半周以下
  • がんが食道の入り口にない
  • 食道のみにがんがあり、転移がない
深達度

食道は内側から粘膜、粘膜下層、筋層、外膜の4つの層構造で成り立っています。がんは粘膜上皮に発生し、進行するにつれて粘膜下層、筋層へと浸潤していきます。PDTを行うには、がんが筋層を越えないことが必要です。がんの深さをみるために、通常の内視鏡検査だけではなく、超音波プローブを使った超音波内視鏡検査が必要なことが多いです。

3.PDTの入院について

PDTの入院期間は10日から2週間程度となります。PDT前日に入院し、PDT施行後は遮光も必要ですので、治療後1~2週間して退院となります。PDT施行後、翌々日から消化によいものを摂取していただき、だんだんと通常の食事に戻していきます。入院には、通常の身の回りのもののほかに、帽子、手袋、サングラス、マスク、上下の長袖の衣服などが必要となります。PDTで2週間入院した場合の入院費用は、3割負担でおよそ35~40万円となります。PDT以外の治療が必要になった場合や、遮光解除後に個室を使用された場合などは、追加の費用がかかりますことをご理解下さい。なお高額医療制度につきましては、当院の窓口でお尋ねください。

4.当院のPDT治療成績

当院では新規のレザフィリン®PDTを10例以上施行し、完全奏功割合(がんが完全に治ったひとの割合)が60~70%となっています。これは報告されている従来型のフォトフリン®PDTを上回る成績です。治験のときからPDTを施行している医師や、光線力学学会のPDT講習会で認定を受けた医師のみがこの治療を行っており、高い成績を維持しています。PDT施行時には医師2人、看護師2名が専属でつき、完全に鎮静下(寝ている状態)で治療を行います。PDT施行時の様子を動画にて示します。安心して治療を受けに来て下さい。

5.PDT施行例の紹介

当院でPDTを施行し、食道がんがなおった患者さんの一部を紹介します。

PDT施行例1

PDT施行例2

消化器内科部長  山本 佳宣

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