麻酔科

麻酔科

ご挨拶

手術療法は、がん治療の中の大きな柱のひとつです。がんの根治を達成するためには、病変部だけでなく周囲のリンパ節などを含めた広範囲の切除が必要になるので、手術の内容も複雑で要する時間も長くなります。 手術による全身への影響をできる限り小さくするためには、適切な鎮痛や全身管理が要求されます。 麻酔科は手術に関連する期間(周術期)の全身管理を行なうことを専門とする診療科です。 コンピュータシステムで情報管理された全手術室に全身麻酔モニターと麻酔器を配備して、皆様が安楽で安全な手術療法を受けられるよう努めています。

当科を受診される方へ

麻酔科の知識と技術は手術麻酔だけでなく、がん性疼痛や慢性疼痛の治療にも活用されます毎週金曜午前に疼痛外来を行っています。がんによる痛みの多くは“WHO方式”といわれる医療用麻薬を中心とした薬物療法の普及によりうまくコントロールできるといわれていますが、がんの痛みの患者さんの15%くらいの方ではうまく痛みがとれておらず、こうした患者さんには、入院の上、“薬で神経を破壊する”神経ブロックという方法を用いて痛みを止める場合もあります。終末期の限られたケースでは、痛みを伝える脊髄の近くに管を入れて、鎮痛薬を持続的に投与する方法を行う場合もあります。痛みの治療にはそれまでの検査や治療歴が必要となりますので、がん患者さんで、痛みでお困りの方はかかりつけ医あるいは当センターの相談支援センターにご相談ください。

麻酔について

麻酔の方法を大きく分けると、意識をなくして眠った状態で行なう「全身麻酔」と手術する場所だけの痛みを取り除く「区域麻酔」に分けられます。 当センターの全身麻酔は、レミフェンタニルという麻薬を用いて鎮痛を行ない、静脈麻酔薬や吸入麻酔薬を併用して、無意識の状態を維持します。さらに、可能であれば区域麻酔による手術部位だけの鎮痛を追加する方法を併用しています。 胸部や腹部の手術(開胸または開腹手術)では、手術する部位に分布する神経のみを麻酔する区域麻酔と呼ばれる方法を用いるのが標準的です。手足の手術でも、区域麻酔を麻酔する末梢神経ブロックを併用する場合があります。 特に、開胸手術や開腹手術の術後は傷の痛みが強いので、痛みにあわせて患者様ご自身が鎮痛薬を追加できるPCAという方法で持続的な鎮痛を行なっています。区域麻酔を併用できない手術でも、術後痛が強い場合はフェンタニルという鎮痛薬を持続静注して痛みを和らげる治療を併用します。

区域麻酔は、局所麻酔薬を注入する方法によって硬膜外麻酔、脊椎麻酔、末梢神経ブロックなどに分けられます。切除範囲が非常に小さく、全身麻酔や区域麻酔を必要としない手術では、手術する場所のみに局所麻酔薬を注射する局所麻酔で手術部位の痛みだけを取り除く場合もあります。 麻酔科が麻酔管理する手術では、少量の鎮静薬を使って緊張を和らげていただくようにこころがけています。

集中治療室は全8床設置されています。手術当日夜は半数以上のがん根治手術患者さまが集中治療室に滞在して、術後の痛みや全身状態の観察・治療をおこないます。集中治療室では術後患者のみならず院内で発生した重症患者の全身管理も担当しています。 集中治療室での治療は人工呼吸や血圧管理にとどまらず、持続血液透析濾過や血液吸着などの急性血液浄化も年間10症例以上おこなっています。また、入院治療が必要な慢性透析患者さまの人工透析も行っています。

麻酔科では日本ペインクリニック学会認定医が週一日ペインクリニック外来も担当しています。さらに、当院の緩和医療科診療にも参加して、がんによる身体的精神的苦痛の緩和につとめています。

はと あきお

波戸 章郎

      
役職

部長(手術調整担当)

麻酔科部長(診療科長)

資格

日本麻酔科学会 認定指導医・専門医

ペインクリニック学会 専門医

日本集中治療医学会 専門医

卒業年度 1999年

まるなか すなお

丸中 淳

      
役職

緩和ケア内科医長

麻酔科医長

資格

日本麻酔科学会 麻酔科専門医

卒業年度 2012年

くの ゆか

久野 有香

      
役職

麻酔科医長

資格

日本麻酔科学会 専門医

卒業年度 2013年

やすもと よしひで

安本 圭秀

      
役職

麻酔科医長

卒業年度 2018年

はら ちあき

原 千明

      
役職

麻酔科専攻医

卒業年度 2019年

ふじた しょうへい

藤田 奨平

      
役職

麻酔科専攻医

卒業年度 2021年

まつお あさこ

松尾 麻紗子

      
役職

麻酔科専攻医

卒業年度 2021年

かとう ひろみ

加藤 洋海

      
役職

非常勤麻酔科医

資格

日本麻酔科学会 麻酔指導医

機構認定 麻酔科専門医

卒業年度 1983年

外来診療表

麻酔科 1診 波戸

休診・代診のお知らせ

急な都合による休診情報は掲載できない場合がありますので、ご了承ください。

診療実績他

2019年 2020年 2021年 2022年 2023年
全身麻酔 1,037 979 909 969 938
全身麻酔(区域麻酔併用) 1,640 1,640 1,629 1,564 1,599
硬膜外麻酔・
脊椎麻酔併用硬膜外麻酔
2 1 7 4 3
脊椎麻酔 477 569 548 478 579
伝達麻酔・その他 7 4 5 13 8
総数 3,163 3,193 3,098 3,028 3,127

トピックス

プレハビリテーションの有用性

悪性腫瘍手術のような大手術では、身体機能の低下予防や早期回復促進のために術後リハビリテーションが行われますが、近年は、「プレハビリテーション」という考え方が注目されており、手術に関連した予後の改善につながる効果が期待されています1)

プレハビリテーションはさまざまな医学治療に関与しますが、手術に関連したプレハビリテーションとしては、Nutrition(栄養)、Exercise(運動)、Worry reduction(不安解消)の3項目が注目されており、これらを合わせて「NEWプレハビリテーション」と称されることもあります。

ERAS(Enhanced Recovery After Surgery:術後早期回復プログラム、表1)が術直前直後の介入が主体となるのに対して、プレハビリテーションは術前中等度〜長期にわたる介入が必要なため、医師のみで達成できるものではありません。

プレハビリテーションの実施によって、高齢者や「フレイル」と呼ばれる「身体機能低下」症例を対象にする手術はもちろんのこと、心臓2)や消化器外科の大手術3)や関節置換手術4)を対象にしたメタアナリシスでも術後回復改善効果が報告されています。

表1 早期術後回復促進(ERAS)プロトコール項目
  • 入院前情報提供と行動目標教育
  • 術前前処置廃止
  • 術前絶飲水廃止+炭水化物負荷
  • 術前投薬廃止
  • 術後経鼻胃管チューブ廃止
  • 短時間作用型麻酔薬使用
  • 硬膜外麻酔の有効使用
  • 周術期過剰輸液負荷回避
  • 手術創縮小 不要なドレーンの排除
  • 術中低体温予防
  • 早期離床
  • 術後疼痛管理の徹底
  • 術後嘔気嘔吐予防の定型化
  • 術後腸管蠕動促進
  • 膀胱カテーテル使用期間の短縮
  • 早期経口摂取開始
  • 臨床的アウトカム報告の義務化
引用文献
  • 1) Silver JK, Baima J:Cancer prehabilitation:an opportunity to decrease treatment-related morbidity, increase cancer treatment options, and improve physical and psychological health outcomes. Am J Phys Med Rehabil 2013; 92: 715-27
  • 2) McCann M, Stamp N, Ngui A et al.: Cardiac Prehabilitation. J Cardiothorac Vasc Anesth. 2019; 33: 2255-65.
  • 3) Trépanier M, Minnella EM, Paradis T et al.: Improved Disease-free Survival After Prehabilitation for Colorectal Cancer Surgery. Ann Surg. 2019; 270: 493-501
  • 4) Chen H, Li S, Ruan T, Liu L et al.: Is it necessary to perform prehabilitation exercise for patients undergoing total knee arthroplasty: meta-analysis of randomized controlled trials. Phys Sportsmed. 2018; 46: 36-43. )

紹介元の先生へ

毎週金曜午前に疼痛外来を行っています。対象となる“痛み“はがんを多く診療する病院の性質上、がんに関連したものが主体です。昨年当科外来受診したのべ患者数は401名で、内訳はがんによる痛み85名で、手術や化学療法などがん治療の後に残った痛みの患者159名、がん患者でしばしば起こるヘルペス後神経痛74名でした。

がんによる痛みの多くは“WHO方式”といわれる医療用麻薬を中心とした薬物療法の普及によりうまくコントロールできるといわれています。しかし、がん性疼痛患者さんの15%くらいの方ではうまくいかないともいわれています。こうした患者さんには特殊な鎮痛方法が必要となります。痛みの部位によって異なりますが、神経を破壊する薬剤を用いる神経ブロックを行う場合もあります。終末期の難治性のケースでは、くも膜下にカテーテルを入れて鎮痛薬を持続的に投与する方法(くも膜下鎮痛)を行いながら、在宅療養をする場合もあります。手術や化学療法などのがんの治療後の痛みの患者さんも対象としています。

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