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診療部の紹介

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標準治療・治療成績について

標準治療と治療成績

はじめに

頭頸部がん、なかでもとりわけ喉頭がんは喫煙との関連が深く、同様に喫煙や飲酒との関連が深いがんとして咽頭がんや食道がんや口腔がんなどが知られています。これらのがんは原因(喫煙や飲酒)を同じとするため、同時発症あるいは時期を前後して発症(異時性重複癌)することがしばしば見受けられます。

早期がんに対しては放射線を主体とした治療で根治を目指すことが可能ですが、後発性の異時性重複癌を発症した際の治療にあたり放射線照射の既往が根治性や喉頭機能温存に対する大きな妨げになることもあるため、適応や治療歴の有無の確認と同時に喫煙歴や飲酒歴やその人の推定余命を考慮した将来的な見通しをたてることが、治療方針決定にあたり重要となります。

進行がんに対しては手術を治療の中心と位置づけ、その補助治療目的で放射線療法と化学療法を組み合わせた集学的治療を行っています。過去10年はCDDP+5FUによる導入化学療法での治療効果判定を用いた後治療(手術か放射線か)の振り分けや、根治照射後の計画的頸部郭清(Planned Neck Dissection: PND)を施行してきましたが、近年はいずれも施行する頻度は減少傾向です。ただし一部の進行がんに対しては予後の向上を目指してDOC+CDDP+5FUを用いた導入化学療法をおこなう場合があります。

進行がんに対する根治性や機能温存を目的とした同時併用化学放射線療法、放射線治療では対処が困難な喉頭癌に対する各種喉頭機能温存手術、超進行甲状腺がんに対する気管合併切除後の再建の工夫など、根治性を損なわずに機能温存をはかるための治療を常に追求しています。治療内容と結果については期待する一定レベルの目標を達成できてはいますが、さらなる予後と質の向上を目指して随時検討をおこなっています。

悪性腫瘍摘出後の欠損部の再建には、機能、整容を考慮して形成外科とともに前腕皮弁、大腿皮弁、腹直筋皮弁、肩甲骨皮弁、遊離空腸などの血管吻合を用いた再建術を年間二十~三十数例に行っています。

頸部郭清についても原則的に副神経、胸鎖乳突筋、内頸静脈を温存し、術後の機能障害が最小になるよう努めています。

はじめに

当科で治療をおこなう部位

部位 亜部位
鼻腔および副鼻腔 鼻腔、上顎洞、篩骨洞、前頭洞、蝶形洞
口唇および口腔 口唇、頬粘膜、歯槽歯肉、硬口蓋、舌、口腔底
上咽頭 後上壁、側壁、下壁
中咽頭 舌根部、扁桃、軟口蓋、口蓋垂、中咽頭後壁
下咽頭 梨状陥凹、輪状後部、下咽頭後壁
喉頭 声門上部、声門部、声門下部
唾液腺 耳下腺、顎下腺、舌下腺
甲状腺 甲状腺、上皮小体
頸部食道  
その他 頸部の悪性腫瘍・良悪境界疾患

当科での治療について

頻度の高い治療を呈示。詳細は症例によって異なる。
原則として初回治療を想定。原発巣(T)に対する治療を記載。
リンパ節(N)の対応は備考欄に記載。
手術後再発高リスク群に対して術後照射 66~70Gy(CDDP 100mg/m2×3コース併用)を考慮。
分子標的薬(Cetuximab)を併用する放射線治療(bioradiotherapy: BRT)も選択肢。
根治手術や根治照射が困難な症例については後述。

上顎癌
T(NM) 治療 追加事項
T1-3 拡大デンケル手術/上顎全摘
根治照射 66~70Gy CDDP 100mg/m2×3コース併用
IMRT
T4a/4b 根治照射 66~70Gy CDDP 100mg/m2×3コース併用
上顎全摘/上顎拡大全摘/頭蓋底手術
IMRT
臨床試験
備考 臨床試験としてCDDP超選択的動注化学放射線治療を施行
口腔癌
T(NM) 治療 追加事項
T1 部分切除術。摘出後は一次縫合あるいは吸収性組織補強材で被覆。  
T2-4 浅在性腫瘍を除き、原則的に頸部郭清術(予防的あるいは根治的)を同時併用して一塊切除し、再建を行う。
高齢者では予防的頸部郭清術の省略や一塊切除の回避(再建なし)を行うことがある
再建を行わない場合は一次縫合あるいは吸収性組織補強材で被覆
備考 摘出手術を原則とし、導入化学療法や(化学)放射線療法はおこなわない。
喉頭癌(声門癌)
T(NM) 治療 追加事項
T1a レーザー切除術
根治照射 66Gy
喉頭温存
T1b 根治照射 74.4Gy(1日2回照射)
レーザー切除術/喉頭垂直部分切除
喉頭温存
T2
(比較的小さい)
喉頭垂直部分切除術
根治照射 74.4Gy(1日2回照射) CDDP 5mg/body daily 併用
喉頭温存
T2
(比較的大きい)
喉頭亜全摘出術
喉頭垂直部分切除術
根治照射 66~70Gy CDDP 100mg/m2×3コース併用
喉頭温存
T3 喉頭全摘出術
喉頭垂直部分切除術
根治照射 66~70Gy CDDP 100mg/m2×3コース併用
一部に喉頭温存
T4 喉頭全摘出術
喉頭亜全摘出術
根治照射 66~70Gy CDDP 100mg/m2×3コース併用
一部に喉頭温存
備考 全ステージで喉頭機能温存の可能性を考慮する(再発例を含む)。
喉頭癌(声門上癌、声門下癌)
T(NM) 治療 追加事項
T1 根治照射 66Gy/33Fr
喉頭水平部分切除術(声門上癌)
レーザー切除術(声門上癌)
喉頭温存
T2 根治照射 74.4Gy/62Fr(1日2回照射) ±CDDP併用
喉頭水平部分切除術(一部の声門上癌)
喉頭温存
T3 喉頭全摘出術
根治照射 66~70Gy CDDP 100mg/m2×3コース併用
喉頭亜全摘出術(一部の声門上癌)
一部に喉頭温存
T4 喉頭全摘出術
根治照射 66~70Gy CDDP 100mg/m2×3コース併用
喉頭亜全摘出術(一部の声門上癌)
一部に喉頭温存
備考 全ステージで喉頭機能温存の可能性を考慮する(再発例を含む)。
手術の際は、予防的頸部郭清術を考慮
中咽頭癌
T(NM) 治療 追加事項
T1 経口的腫瘍切除術
根治照射 66-70Gy/33-37Fr/7w ±CDDP併用
IMRT
T2 根治照射 66~70Gy ±CDDP 100mg/m2×3コース併用
原発巣切除±頸部郭清術±再建手術
IMRT
T3 根治照射 66~70Gy CDDP 100mg/m2×3コース併用
原発巣切除+頸部郭清術+再建手術
IMRT
T4 根治照射 66~70Gy CDDP 100mg/m2×3コース併用
原発巣切除+頸部郭清術+再建手術
IMRT
備考 治療前に全例でp16検索
治療に伴う嚥下・構音・発声機能の変化を推測し、治療方針を決定
下咽頭癌
T(NM) 治療 追加事項
Tis 内視鏡下下咽頭粘膜(下)切除術 喉頭温存
T1 経口的部分切除術
下咽頭部分切除術±頸部郭清術±再建手術
根治照射 66~70Gy ±CDDP 100mg/m2×3コース併用
喉頭温存
T2 根治照射 66~70Gy CDDP 100mg/m2×3コース併用
下咽頭部分切除術±頸部郭清術±再建手術
原発巣切除±頸部郭清術±再建手術
喉頭温存
T3
(喉頭固定なし)
根治照射 66~70Gy CDDP 100mg/m2×3コース併用
原発巣切除+頸部郭清術+再建手術
一部に喉頭温存
T3
(喉頭固定あり)
原発巣切除(喉頭摘出)+頸部郭清術+再建手術
根治照射 66~70Gy CDDP 100mg/m2×3コース併用
一部に喉頭温存
T4 原発巣切除(喉頭摘出)+頸部郭清術+再建手術
根治照射 66~70Gy CDDP 100mg/m2×3コース併用
一部に喉頭温存
備考 喉頭温存の希望を考慮
RTはIMRT
N2-3症例でCRT施行時は、照射後の早期救済郭清手術を考慮
頸部食道癌

摘出手術(咽喉食摘)が原則。条件が整えば喉頭温存手術(再建手術必要)。
その他、化学放射線療法。

唾液腺癌(耳下腺・顎下腺)

摘出手術。直接浸潤がなければ顔面神経は極力温存する。
低・中等度悪性群cN0症例では頸部郭清を基本的に省略。
術後放射線治療を追加することがある。

甲状腺癌

手術をおこなう。甲状腺全摘出術、健側上皮小体温存を原則とするが、明らかな腫瘍がなければ全摘出せずに一側葉を温存することもある。反回神経合併切除時は、頸神経ワナを用いた神経再建をおこなう。気管合併切除時は二期的手術を必要としない気管再建法をおこなっている。喉頭浸潤例については、腫瘍浸潤部を合併切除するが、大部分で喉頭温存可能と思われるため、原則として喉頭の合併全摘出は回避している。
未分化癌では、根治性が見込める場合やQOL改善につながる場合に手術を考慮。

その他頸部の悪性疾患

悪性神経鞘腫、䚡性癌など。摘出手術が原則。術後放射線治療を追加することがある。

切除不能扁平上皮癌(全部位 anyT anyN)遠隔転移なし

原発巣と頸部に対しては、根治目的あるいは症状緩和目的で60~70Gyの照射をおこなう。その際に可能であれば、CDDP 100mg/m2/3w 3コースやCetuximabの同時併用を行う。Docetaxel+CDDP+5-FUを用いた化学療法を3コース先行してから(化学)放射線療法をおこなう場合がある。

切除不能扁平上皮癌(全部位 anyT anyN)遠隔転移あ

CDDP+5FUを中心とした化学療法をおこなう。DocetaxelやCetuximabを併用することが多い。原発巣と頸部に対しては、症状緩和が期待できる場合に60~70Gyの照射をおこなう。その際に可能であれば、CDDP 100mg/m2/3w 3コースやCetuximabの同時併用を行う。

治療成績について

喉頭癌(n=138)、中咽頭癌(n=79)、下咽頭癌(n=124)、2005年1月~2009年12月治療症例(ステージⅣCは除く)の生存曲線と疾患特異的5年生存率は次のとおり。

2015年6月

臨床試験について

現在行われている臨床試験など

1. 下咽頭癌に対する下咽頭・喉頭全摘術の全国調査

2. 下咽頭、食道重複癌における遺伝子変異の共通性に関する研究

3. JCOG1212「局所進行上顎洞原発扁平上皮癌に対するCDDPの超選択的動注と放射線同時併用療法の用量探索および有効性検証試験」にご参加の皆様へ

4. JCOG1008「局所進行頭頸部扁平上皮癌術後の再発ハイリスク患者に対する3-Weekly CDDPを同時併用する術後補助化学放射線療法とWeekly CDDPを同時併用する術後補助化学放射線療法に関するランダム化第IIIII相試験」にご参加の皆様へ

5.局所進行頭頸部扁平上皮癌術後再発ハイリスク患者の術後補助化学放射線療法の予後・治療効果・有害事象を予測するバイオマーカー研究(研究番号 JCOG1008A1)

6.頭頸部がん治療終了症例における予後予測についての多機関前向き観察研究