診療部の紹介 -血液内科-
兵庫県立がんセンタートップページ > がんセンターについて > 診療部の紹介 > 血液内科 > 標準治療と治療成績
がん拠点病院の血液内科として造血器悪性腫瘍を中心に診療を行っております。治療対象にしておりますのは急性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、骨髄異形成症候群、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫、骨髄増殖性腫瘍などです。これらの疾患であっても全身状態などの理由により積極的な治療が不可能な場合はお受けできない場合があります。貧血や血小板減少などで診断にお困りの場合にはお気軽にご相談ください。またリンパ節腫脹などで生検が必要な場合も、放射線診断科、消化器内科、外科系診療科と相談し最も負担の少ない適切な方法で生検し診断いたしますのでご紹介ください。至急入院が必要な場合は、入院病床の調整が必要な場合もありますので、主治医の先生は、事前にご連絡いただきますようお願いいたします。当科では悪性リンパ腫(非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫)症例が多く、入院患者の内訳では全体の約2/3を悪性リンパ腫が占めています(図1,2)。ただし、この悪性リンパ腫の症例の多くは初回治療のみの入院で、残りの治療は全て外来で行っております。外来治療に際して、週2回程度 の通院が必要になりますので、通院困難な方は地元の中核病院の協力を得て治療を受けていただいております。
図1:2019年度入院疾患内訳
図2:2019年度外来初診疾患内訳
当科では年間30例弱程度の造血幹細胞移植を施行しております。対象疾患は主に造血器悪性疾患ですが、再生不良性貧血などの良性疾患で造血幹細胞移植の至急必要な症例がございましたらご相談ください。2020年12月末時点で同種造血幹細胞移植総数は406例、うち血縁者間同種造血幹細胞移植は181例、非血縁者間同種骨髄移植は171例に達しています。海外からの骨髄提供を受けた移植も4例施行しました。また臍帯血バ ンクの認定施設にもなっており、大人に対する臍帯血移植も44例施行しました。非血縁者同種末梢血幹細胞も行われるようになっており、当科も2014年日本骨髄バンクより末梢血幹細胞移植施設の認定を受けました。さらに高齢者(55歳から65歳前後まで)や高リスク症例に対してはRISTなどの前処置の強度を下げた移植も行っており、ドナーが見つからない症例につきましてはバンクでのドナー検索に加えPTCY法によるHLA半合致移植も行っております(詳細は かけはしVol.74)。自家移植につきましては、当科では2020年12月末時点で198例を施行しております。再発・難治性の悪性リンパ腫や多発性骨髄腫、再発時の急性前骨髄球性白血病などを対象に行っております。最近ではほぼ全例、末梢血幹細胞移植で行っております。(図3)
図3:当科造血細胞移植内訳
リンパ節腫大を主訴として当科にご紹介をいただくことが多いですが、全てが悪性リンパ腫とは限りません。伝染性単核球症などのウイルス感染症やリンパ節炎、他の腫瘍のリンパ節転移なども考えられます。
また悪性リンパ腫の中でもいくつもの種類があり、治療法が違う場合があります。そのため治療前には、組織にて悪性リンパ腫であるかどうか、悪性リンパ腫な らどのような種類かを確認してから治療を開始しております。その際には免疫染色を含む病理学的検査に加え、表面マーカー検査、染色体検査なども可能な限り施行し、総合的に診断しております。また病期の診断については、CTに加えFDG‐PET‐CT、MRI、骨髄生検等を必要に応じて加えながら診断しております。治療については、ホジキンリンパ腫であればABVD療法(ドキソルビシン+ブレオマイシン+ビンブラスチン+ダカルバジン)と放射線治療を中心に行っております。最近では抗CD30抗体であるブレンキシマブ・ベドチンが初回治療から使用可能となったため、A-AVD療法(ブレンキシマブ・ベドチン+ドキソルビシン+ビンブラスチン+ダカルバジン)も行っております。非ホジキンリンパ腫のうち、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫などの中等度悪性度群のものの多くはCHOP療法(シクロホスファミド+ドキソルビシン+ビンクリスチン+プレドニゾロン)およびその類似の治療法にて治療を開始いたします。CD20陽性の場合はリツキシマブを併用(R-CHOP療法)いたします。濾胞性リンパ腫など低悪性度群のリンパ腫は標準療法がないため、病期や全身状態などを考慮した上で、放射線治療、リツキサン単剤療法、R-ベンダムスチン療法、R-CHOP療法などを行っております。濾胞性リンパ腫には新しい抗CD20抗体であるオビヌツズマブをリツキシマブの代わりに使用することが多くなっています。バーキットリンパ腫やリンパ芽球性リンパ腫、成人T細胞性白血病リンパ腫といった高悪性度群のリンパ腫には白血病治療に準じた治療を行っており、慢性リンパ性白血病や菌状息肉腫など特殊なリンパ腫にはそれぞれに合った治療法より開始するようにしております。当科はJapan Clinical Oncology Group (JCOG)に参加しておりますので、可能な限りJCOGの臨床試験に参加していただいております。
急性骨髄性白血病(AML)、急性リンパ性白血病(ALL)、慢性骨髄性白血病(CML)、高リスク骨髄異形成症候群(MDS)の治療については、当科はJapan Adult Leukemia Study Group (JALSG)に参加しておりますので、可能な限りJALSGの臨床試験に参加していただいております。参加されない場合も、JALSGのプロトコールに準じて治療を行います。AMLについては寛解導入療法を1~2コース行い、寛解に入ったら地固め療法を3~4コース行います。予後良好と判断されれば化学療法のみで治療を終了し、予後不良の可能性が高ければ地固め療法中または後の造血細胞移植を考慮します。ALLについてはAML同様に寛解導入療法、地固め療法を行いますが、成人のALLは予後が悪いことが多いため、可能な限り造血細胞移植を考慮します。フィラデルフィア染色体陽性の症例にはダサチニブやイマチニブ、ポナチニブを併用いたします。再発・難治例ではイノツズマブ・オゾガマイシンやブリナツモマブを使用して寛解に導入し移植に繋げていくようにしております。高リスクMDSはアザシチジンやAMLに準じて治療を行いますが、やはり予後不良が予想されるため可能な限り造血細胞移植を考慮します。低リスクMDSにはサイトカイン療法や輸血などの対症療法を行いますが、輸血の回数が増えてきた場合にはアザシチジン療法を行います。
M蛋白と言われる異常たんぱくの出現で発見されることの多いリンパ系腫瘍ですが、治療の対象となるのは病的骨折、貧血などの症状を示す症候性骨髄腫です。造血幹細胞移植のできる症例は自家末梢血幹細胞移植を含み、ボルテゾミブ、レナリドミドなどの新規薬剤を含んだ初回治療を行います。可能な限りJapan Study Group for Cell Therapy and Transplantation (JSCT) などの臨床試験に参加していただいております。造血幹細胞移植のできない症例につきましては、抗CD38抗体であるダラツズマブ、レナリドミド、ボルテゾミブ、メルファラン、デキサメタゾン、プレドニゾロンを組み合わせた初回治療を行います。再発・難治の骨髄腫に対してはカルフィルゾミブ、イキザゾミブ、ポマリドミド、エロツズマブ、イサツキシマブなどを含んだ治療を行います。
2021年5月