がんセンターについて

診療部の紹介 -呼吸器外科-

診療部の紹介

兵庫県立がんセンタートップページ > がんセンターについて > 診療部の紹介 > 呼吸器外科 > 標準治療と治療成績

標準治療・治療成績について

標準治療と治療成績

はじめに

当科は開設以来35年間にわたって、一貫して原発性肺がんを中心に転移性肺腫瘍、縦隔腫瘍、胸膜中皮腫などの胸部悪性疾患を対象とした外科治療を行ってまいりました。2018年度の呼吸器外科手術は309例で、肺がんは197例、転移性肺腫瘍は49例でした。開設以来の手術総数は8,096例で、肺がん5,157例・転移性肺腫瘍917例・縦隔腫瘍357例・胸膜中皮腫167例などです。

はじめに

各疾患に対する治療方針

●原発性肺がん

小細胞肺がんと非小細胞肺がんの二つに大きく分けて治療を計画します。全体の約80~ 85%を占める非小細胞肺がんのうち、進行度 I 期・II 期は外科治療が主体となります。I期のうち、腫瘍の大きさが小さい症例では手術単独療法となりますが、腫瘍が大きいI期と肺門リンパ節に転移を認めるII期では、手術後に再発を予防するための抗がん剤治療(術後補助化学療法)を行います。III 期では抗がん剤・放射線治療を組み合わせて治療することが多いですが、集学的治療の一環として手術を行う場合があります。

これに対して、残り約15~20%を占める小細胞肺がんは、比較的転移や進行の速いことが多いため外科治療の対象となることは稀ですが、リンパ節転移がない症例では手術と抗がん剤(術後補助化学療法)で積極的に根治を目指します。

肺がんの手術では肺の切除とリンパ節の郭清が行われます。標準術式は肺葉切除術ですが、当科の基本方針は根治性を損なわず、かつ術後の quality of life にも配慮した術式の選択です。早期と考えられる肺がんに対しては肺組織温存手術、すなわち切除量の少ない部分切除術や区域切除術の選択肢があります。また体への負担が大きい肺全摘術を回避するために、気管支や肺動脈の形成術を積極的に施行しています。

やや進行した肺がんで切除が一見困難に見える症例や、近年増加している肺気腫を代表とした慢性閉塞性肺疾患(COPD)に罹患している肺機能が悪い症例についても、さまざまな角度から根治切除の可能性を検討します。周辺臓器や大血管の合併切除によって完全切除が見込まれる場合には、高難度な拡大手術も手掛けております。

●転移性肺腫瘍

両側、多発転移であっても、原発巣がコントロールされており、切除によって予後の改善が期待される場合には手術を行います。

●悪性胸膜中皮腫

「原因不明の胸水貯留」で発見されることの多い疾患ですが、胸水の細胞検査では診断が困難です。確定診断には胸膜の一部を採取(生検)することが不可欠で、当科では全身麻酔下に胸腔鏡を用いて胸膜生検を行っています。

悪性胸膜中皮腫と診断された症例には、根治的治療が可能な場合には手術・抗がん剤・放射線を組み合わせた集学的治療を行います。根治を目指した手術は『一側胸膜肺全摘術』という胸膜ごと片方の肺を全部切除し、同時にリンパ節郭清術を追加する手術です。呼吸器外科の中ではもっとも体への負担の大きな手術ですが、当科は国内有数の豊富な手術経験を有しています。

低侵襲手術への取り組み

●完全胸腔鏡手術の導入

従来の肺がん手術は30cmほどの開胸創により行われていましたが、当科では手術の低侵襲化を目指し、1990年頃より他施設に先駆けて胸腔鏡補助手術を導入しました。さらに2009年からは、主として進行度I期(リンパ節転移のない5cm以下)の肺がんを対象に完全胸腔鏡手術を導入致しました。術者はモニター画像のみを見て手術を遂行するため、肋骨と肋骨を開く操作が不要となり、術後に生じる胸痛(術後創部痛、または肋間神経痛)がさらに軽減されました。早期離床、術後在院日数の短縮に効果を挙げています。

完全胸腔鏡手術 手術風景

完全胸腔鏡手術 手術風景

完全胸腔鏡手術 手術の術野

完全胸腔鏡手術 手術の術野

胸腔鏡補助手術 術後の創部

胸腔鏡補助手術

完全胸腔鏡手術 術後の創部

完全胸腔鏡手術

術後の創部

●肺癌がん、縦隔腫瘍に対するロボット支援手術(ダ・ヴィンチ)の導入に向けて

平成30年度の診療報酬改定により、「肺悪性腫瘍」、「縦隔悪性腫瘍」、「縦隔良性腫瘍」に対するダ・ヴィンチを用いた肺癌がんロボット支援手術が保険適応になりました。
当科でも完全胸腔鏡手術での豊富な経験を基にダ・ヴィンチを用いた肺がん及び縦隔腫瘍手術の導入を進めております。ダ・ヴィンチを用いた手術にご興味のある方は、当科医師にご相談下さい。

●胸腺腫瘍摘出に対する剣状突起下アプローチ

胸腺は、胸の中央、心臓の少し上で、胸骨のすぐ後ろに位置しています。従来、胸腺にできた腫瘍を摘出する場合、胸骨縦切開が必要でしたが、当科では豊富な完全胸腔鏡下手術の経験を活かして2016年より剣状突起下アプローチによる胸腺・胸腺腫摘出術を行っています。痛みが少なく、整容的にも優れた、体への負担の少ない手術です。

従来の胸骨縦切開

剣状突起下アプローチによる胸腔鏡手術

原発性肺がんの治療成績 (2010-2016年度)

●術後平均在院日数 12.4 日
●在院死亡率 0.53%(全国平均* 0.8%)
●長期予後 (2007/4/1 – 2011/3/31手術)

病理病期✱ 症例数 5年生存率  (全国平均*)
I A 339 85.1%(86.8%)
I B 195 71.8%(73.9%)
II A 91 61.8%(61.6%)
II B 51 72.0%(49.8%)
III A 118 50.7%(40.9%)

*J Thorac Oncol 2011;6:1229–1235.のデータ引用
✱病理病期は、肺癌取り扱い規約第7版を使用

バイオバンクについて

がんは遺伝子の変異によっておこる病気ですが、その変異は患者さんそれぞれに異なります。

近年のがん治療において、遺伝子変異の情報を正確に把握することはきわめて重要です。実際、肺がんに対する薬物療法においても、がん細胞が持つ遺伝子変異に合わせて治療薬を選択する時代が訪れました。しかし遺伝子変異の情報は、手術や生検で採取した検体の保管方法や時間の経過によって、正確さが大きく損なわれることが分かっています。

そこで当科では、より正確な遺伝子変異情報を保持するために、手術検体の一部を特殊な試薬に浸けて凍結保存するバイオバンクの取り組みを、病理部・研究部と連携して行っています。それによって肺がんの手術後、たとえ5年先、10年先に再発した場合でも、正確性の高い遺伝子変異情報を提供することが出来るため、患者さんにとって最適な治療薬の選択が可能になります。

臨床研究、臨床試験について

手術だけで根治する肺がんは増えていますが、その反面、手術だけでは治りきらない再発率の高い進行肺がんも増加しています。当科では、治療成績を一層向上させること、さらに新たな標準治療を確立することをめざして、様々な研究活動(臨床研究、臨床試験)を行っています。

これらの臨床研究、臨床試験は当センターの倫理審査委員会や治験審査委員会で承認を受けています。(臨床試験に関しての詳細は、臨床試験(治験)について、をご参照下さい。)

  研究タイトル
1 高悪性度神経内分泌肺癌完全切除例に対するイリノテカン+シスプラチン療法とエトポシド+シスプラチン療法のランダム化比較試験 (JCOG1205/1206)
【対象疾患】
肺癌(術後病理診断で高悪性度神経内分泌癌と診断された肺癌)
【試験概要】
日本臨床腫瘍研究グループ (JCOG) が実施している国内多施設共同ランダム化第III相比較試験です。
2 臨床病期I/II期非小細胞肺癌に対する選択的リンパ節郭清の治療的意義に関するランダム化比較試験 (JCOG1413)
【対象疾患】
臨床病期I期もしくはII期の非小細胞肺癌
【試験概要】
日本臨床腫瘍研究グループ (JCOG) が実施している国内多施設共同ランダム化第III相比較試験です。
3 特発性肺線維症合併臨床病期I期非小細胞肺癌に対する肺縮小手術に関するランダム化比較第III相試験 (JCOG1708)
【対象疾患】
特発性肺線維症の合併が疑われる臨床病期I期の非小細胞肺癌
【試験概要】
日本臨床腫瘍研究グループ (JCOG) が実施している国内多施設共同ランダム化第III相比較試験です。
4 肺尖部胸壁浸潤がん (Superior sulcus tumor) に対する術前導入療法としてのシスプラチン+ティーエスワン+同時胸部放射線照射(66Gy)後の手術の有効性検証試験
【対象疾患】
非小細胞肺癌
【試験概要】
先進臨床試験呼吸器外科グループ (ACTG) が実施している国内多施設共単アーム第II相比較試験です。
5 特発性肺線維症(IPF)合併非小細胞肺癌に対する周術期ピルフェニドン療法の術後急性増悪抑制効果に関する第Ⅲ相試験
【対象疾患】
特発性肺線維症の合併が疑われる非小細胞肺癌
【試験概要】
North East Japan Study Group (NEJSG) が実施している国内多施設共同ランダム化第III相比較試験です。
6 間質性肺炎合併肺癌切除患者における術後急性増悪予測リスクスコアバリデーションスタディ
【対象疾患】
間質性肺炎の合併が疑われる非小細胞肺癌
【研究概要】
日本呼吸器外科学会主導で実施している国内多施設共同前向き観察研究です。
多施設共同での前向き研究により、間質性肺炎の術後急性増悪を予測するリスクスコアの有効性を検証することを主な目的としています。
7 肺癌センチネルリンパ節に関する研究
【対象疾患】
非小細胞肺癌
【研究概要】
ICGを用いた蛍光イメージング法による肺癌センチネルリンパ節の手技を確立するために、その同定率やその精度を検討する臨床研究です。
8 第8次全国肺癌登録事業 胸腺上皮性腫瘍の前方視的データベース研究
【対象疾患】
胸腺上皮性腫瘍(胸腺腫、胸腺癌、胸腺神経内分泌性腫瘍)
【研究概要】
肺癌登録合同委員会(日本肺癌学会、日本呼吸器外科学会、日本呼吸器学会、日本呼吸器内視鏡学会の共同で運営)が実施している国内多施設共同前向き観察研究です。
胸腺上皮性腫瘍の患者さんのデータを匿名化した上でデータベースに登録し、本邦の治療の現状と治療成績を調査することで、胸腺上皮性腫瘍に関する研究ならびに診療の進歩・普及を図ることを目的にしています。
9 第9次全国肺癌登録事業 悪性胸膜中皮腫の前方視的データベース研究
【対象疾患】
悪性胸膜中皮腫
【研究概要】
肺癌登録合同委員会(日本肺癌学会、日本呼吸器外科学会、日本呼吸器学会、日本呼吸器内視鏡学会の共同で運営)が実施している国内多施設共同前向き観察研究です。
悪性胸膜中皮腫の患者さんのデータを匿名化した上でデータベースに登録し、本邦の治療の現状と治療成績を調査することで、悪性胸膜中皮腫に関する研究ならびに診療の進歩・普及を図ることを目的にしています。
10 肺悪性腫瘍に対する癌オルガノイド培養に関する研究
【対象疾患】
手術により切除できた非小細胞肺癌患者および転移性肺癌患者
【研究概要】
手術で切除した癌組織を特殊な培養条件で培養することにより、元の癌と似た形態を維持し、増殖する癌オルガノイド培養が可能になってきています。本手法により、癌細胞を生きたままの状態で解析したり保存したりすることができるようになるため、今後の癌研究において重要な手法になってきております。
肺悪性腫瘍に対して手術により切除できた腫瘍組織の一部を用いて癌オルガノイド培養を行い、その最適な培養条件等を検討し、臨床への実用化に繋げることを目的とした院内研究です。
詳しくはこちら
11 切除可能非小細胞肺癌 II-IIIA 期における血漿検体を用いた可溶性免疫因子のバイオマーカー研究 (WJOG12319LTR)
【対象疾患】
非小細胞肺癌 (WJOG4107試験に登録された方)
【研究概要】
西日本がん研究機構(WJOG)が実施しています。以前実施されたWJOG4107試験:非小細胞肺癌術後アジュバント治療におけるTS-1 vs CDDP+TS-1の無作為化第II相臨床試験に登録され、且つ化学療法効果予測因子の探索研究のために血漿検体を提出頂いた患者さんが対象になります。
残余血漿検体または保存血漿検体を用いて可溶性免疫因子(可溶性PD-L1、可溶性PD-1、可溶性CTLA-4)を測定し、これらの因子の肺がんにおけるバイオマーカーとしての意義を検討します。
詳しくはこちら

NCDについて

日本では、関連する多くの外科系臨床学会が連携し、わが国の医療の現状を把握するため、『一般社団法人National Clinical Database』(以下、NCD)を立ち上げ、2011年よりデータベース事業を開始することになりました。この法人における事業を通じて、患者さんにより適切な医療を提供するための専門医の適正配置が検討できるだけでなく、最善の医療を提供するための各臨床現場の取り組みを支援することが可能となります。
当センターにおきましては、本事業に呼吸器外科、消化器外科、乳腺外科が参加し、当該科にて手術・治療を受けられるすべての患者さんを対象にさせていただきます。もしNCDへの登録を希望されない方は主治医にお申し出ください。
尚、NCDに登録する際には、患者さんの氏名やカルテ番号等の個人を識別できる情報は登録しませんので個人情報が外部に漏洩することはありません。何卒趣旨をご理解の上、ご協力賜りますよう宜しくお願い申し上げます。
(詳しくは、外科系診療科のNCD登録をご参照下さい。)

2016年7月