兵庫県立がんセンターTIMES

がんセンタータイムズ

第8回 腫瘍循環器について

代表的な疾患とそれに関係する検査を、経験豊かな臨床検査技師「ケンさん」と高校生「リンちゃん」との対話形式で紹介していきます。

    

リンちゃん:

こんにちは、ケンさん。今日のテーマは腫瘍循環器でしたね。

ケンさん:

やあ、リンちゃん。難しい用語をよく知っているね。
腫瘍はいわゆる“がん”のこと、循環器は“心臓や血管”のことで、この両方を診る新しい診療分野なんだよ。 がんセンターではおもに循環器内科の医師が、がん患者さんの心臓や血管を診ていて、今日は腫瘍循環器診療をして下さっている野中先生にも来てもらっているよ。

野中先生:

こんにちは。よろしくお願いしますね。

リンちゃん:

こんにちは。野中先生、よろしくお願いします。
なぜ腫瘍循環器という新しい分野が必要なんですか?

ケンさん:

それはね、まずこの表を見てみよう。国内での死亡原因の1位は昭和56年からがんでずっと増加し続けているだろう?でも、がんの治療も進歩していて、がんと診断された人の5年後の生存率は約70%で、 がんになってもけっこう長い期間生きられるようになっているんだ。

                  健康ひょうご21県民運動ポータルサイトより

リンちゃん:

がんも不治の病ではなくなっているんですね。

ケンさん:

そうなんだよ。がんが治った人やがんの症状が落ち着いている人、現在がんと戦っている人を含めて「がんサバイバー」と呼んでいて、この「がんサバイバー」が増加しているんだよ。 そして、死因第2位は心疾患で、その原因の多くは動脈硬化によるもので、生活習慣の変化と高齢化の影響でこちらも増えていっている・・・だから、がん患者さんが心疾患を合併したり、その逆の心疾患のある患者さんががんを患うことも珍しくないんだよ。

リンちゃん:

じゃあ、がんと心臓の病気のどちらも治療しないといけなくなるんですか?

野中先生:

そうなのよ。心臓の病気のせいでがんの治療が十分にできなかったり、がんのせいで心臓の治療ができなかったり・・・だから、患者さんにとって一番いい結果になるように、どちらの治療を優先するかどのように治療をするのがいいかを判断しているのよ。

リンちゃん:

腫瘍循環器診療って重要ですね。

ケンさん:

そうなんだ。がんの治療は身体に大きな負担がかかるので、治療の前には身体がその治療に耐えることができるかを調べておくんだよ。
がんの治療には手術、放射線療法、化学療法とあって、それらを単独でしたり、組み合わせて治療をするんだ。
手術の前には全身麻酔に耐えられる心臓や血管かどうか調べる必要があるし、放射線治療では、血管の内側の細胞に障害を与えることで動脈硬化を起こしたり、心膜や弁にも影響を与えることがあってね。 化学療法というのは抗がん剤治療のことで、様々な副作用が起こるんだよ。

野中先生:

抗がん剤は近年目覚ましい進歩を遂げていて、新しい薬がどんどんできていて、その中に、分子標的薬という薬があるんだけど、がん細胞を狙い撃ちするので正常な細胞へのダメージが少なくて副作用が少ないのが特徴なの。 それでも副作用がゼロではなくて、種類によっては心臓の筋肉に障害を与えて心臓の動きを悪くしたり、不整脈や身体の中に血栓という血の塊を作る副作用を起こしてしまうの。

           循環器系に影響を及ぼす抗がん剤の種類

リンちゃん:

がんの治療をしているのに心臓が悪くなると、がんの治療が続けられなくなるんですか?

                                                                               

野中先生:

いいえ、大丈夫よ。抗がん剤で心臓にダメージがおこったとしても早く見つけて対処すれば、抗がん剤での治療を続けることができるのよ。それを早く見つけるために、心臓に影響がある抗がん剤での治療中は定期的に心臓の検査をしているのよ。

リンちゃん:

どんな検査をするんですか?

ケンさん:

生理機能検査室では心電図検査や心エコー図検査をしているよ。
心電図では心筋梗塞などの心筋の変化が起こっていないかや、不整脈がないかがわかるし、心エコー図検査では、心臓の大きさを見たり、動きが悪くなっていないか、弁が傷んでいないか等をチェックするんだ。

野中先生:

抗がん剤治療前と比べて心臓の働きが低下しているとわかったら、抗がん剤を一時的にやめたり、抗がん剤と一緒に心臓の働きを助ける薬を使ったりします。 それで心臓の働きが回復すれば、また抗がん剤治療が再開できるのよ。心臓の働きが弱っていることの発見が遅れたら、心不全という状態になって息苦しさが出て来たりするの。 そうなるとなかなか思うようにがんの治療を進めることができなくなるので心臓への影響を早く気づくために定期的に検査をすることは大切なのよ。

 

   心電図検査        心エコー図検査

リンちゃん:

早く副作用を見つけることが大事なんですね。対処をすれば、抗がん剤治療を続けることができると聞いて安心しました。
あと、抗がん剤の副作用に血栓ができるとも言われていましたよね。

野中先生:

抗がん剤の影響もあるんだけど、そもそもがん患者さんは血栓ができやすい体質になっているのよ。一番怖いのは静脈、おもに足の静脈にできた血栓が剥がれて流れていって肺の血管に詰まることなの。大きな血栓が詰まると、 命に関わることもあるから、何としても早めにそれを見つけて治療したいの。また、動脈にも血栓ができて、脳梗塞や心筋梗塞になることもあるのよ。そのときはがんセンターではできないカテーテル治療のため、 他の専門病院に緊急治療をお願いすることもあります。

ケンさん:

静脈に血栓ができているかどうかは血液中のDダイマーの数値からも予測できるので、Dダイマーが異常値になった人は足の静脈の血管エコー検査をして、血栓ができていないかを調べるんだ。

下肢血管エコー検査

リンちゃん:

血栓が見つかったらどうするんですか?

野中先生:

血栓を溶かすために、点滴薬を投与したり、血をさらさらにする抗凝固薬を飲んだりするのよ。

リンちゃん:

がん治療によって心臓や血管に起こる副作用のことが分かりました。
患者さんの状態を確認しながら、しっかりとがん治療ができるようにサポートする腫瘍循環器診療ってがん治療には必須ですね。
野中先生、ケンさん、今日はありがとうございました!

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