第7回 造血幹細胞移植と臨床検査
代表的な疾患とそれに関係する検査を、経験豊かな臨床検査技師「ケンさん」と高校生「リンちゃん」との対話形式で紹介していきます。
リンちゃん:
こんにちは、ケンさん。今日もよろしくお願いします。
ケンさん:
やあ、リンちゃん。今日は造血幹細胞移植の検査について説明しよう。
リンちゃん:
そもそも、造血幹細胞ってどんな細胞ですか?
ケンさん:
造血幹細胞とは、全ての血球の元となる細胞だよ。造血幹細胞は増殖(自己複製)しながら、いろいろな血球に成熟し、成熟した血球はいろいろな役割を持つようになるんだ。造血幹細胞は骨髄の中に含まれるけど、血球を増やす治療をした後は末梢の血液にも存在するよ。また、へその緒から採取される臍帯血にも含まれることがわかっているんだ。
リンちゃん:
造血幹細胞は様々な血球に成熟する細胞で、とても重要な細胞なんですね。ところで、造血幹細胞移植はどんな治療法ですか?
ケンさん:
造血幹細胞移植は、白血病や悪性リンパ腫などの血液の腫瘍、再生不良性貧血などの骨髄不全で行われる治療法だよ。簡単にいうと、ドナー(提供者)の正常な造血幹細胞を、レシピエント(患者)に移植するんだ。自分の造血幹細胞をあらかじめ取っておいて移植する自家造血幹細胞移植というのもあるよ。
造血幹細胞移植前には、大量の抗がん剤を用いる大量化学療法と、放射線を照射し腫瘍細胞を破壊する放射線療法を組み合わせたとても強力な治療を行い、患者さんの腫瘍細胞を根絶するよ。この強力な治療により、患者さん自身の造血機能も破壊されるため、あらかじめ採取しておいた造血幹細胞を患者さんに移植する事により、正常な造血機能が再構築されるんだ。
リンちゃん:
移植の前には、造血機能が破壊されるなんてとても大変な治療なんですね。
ケンさん:
大変だけど、腫瘍細胞の根絶が期待でき、移植後には正常な造血が期待できる強力な治療なんだ。
造血幹細胞移植は、移植の前処置で造血機能が一旦破壊され、白血球が激減し免疫力が著しく低下する期間があるんだ。免疫力が低下すると様々な感染症にかかりやすくなるから、感染症予防のため造血機能が回復するまで無菌環境で慎重に治療する必要があるんだ。
造血幹細胞移植は、造血幹細胞の由来によって骨髄由来の「骨髄移植」、末梢の血液由来の「末梢血幹細胞移植」、臍帯血由来の「臍帯血移植」の3つに分類されるよ。また、患者さん自身の造血幹細胞をあらかじめ採取し、移植する方法を「自家移植」、他人(ドナー)の正常な造血幹細胞を移植する方法を「同種移植」と言うよ。
リンちゃん:
造血幹細胞移植を行うためにはどんな検査をする必要がありますか?
ケンさん:
一般的には次のような検査をするよ。
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- HLA検査
- 最も重要な組織適合性抗原の一つであるHLAを調べます。HLA型が一致しない造血幹細胞移植は、拒絶反応や重症の移植片対宿主病(GVHD)などの副作用が起こります。自家移植では行いません。
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- 一般的な血液検査
- 赤血球や白血球、血小板などの増減を調べます。また白血病細胞など異常な細胞の出現がないかも調べます。
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- 生化学検査
- 肝機能、腎機能、各種ウイルス感染症の有無等を調べます。
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- 骨髄検査
- 移植前後の骨髄の評価を行います。
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- 輸血に関する検査
- 造血機能が一旦破壊されるため、白血球減少の他に赤血球減少や血小板減少も伴います。そのため輸血は必須です。移植により血液型が変わる人もいます。
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- その他
- 尿・便検査、心電図・心臓超音波検査、胸腹部レントゲン検査、呼吸機能検査等を行います。
リンちゃん:
造血幹細胞移植をするには、いろいろな検査が必要になるんですね。
ケンさん:
移植前後には様々な反応や副作用が起こることがあるから、移植前にしっかり検査をしておくことが重要だよ。
リンちゃん:
がんセンター検査部での取り組みがあれば教えてください。
ケンさん:
造血幹細胞を移植する際の当センター検査部の取り組みは、さっきの一般的な検査に加え、CD34陽性細胞数測定などを実施しているよ。また、ドナーの幹細胞採取時は、たくさんの医療従事者と連携して、採取液の搬送・細胞数測定・報告を迅速に行い、採取量のモニタリングに貢献しているんだ。これらの検査は、移植に必要な造血幹細胞量を採取できたかということを目的に行われる大変重要な検査なんだ。
また、ドナーとレシピエントのABO血液型が不一致の場合があるよ。その場合、患者さんは移植後にドナーの血液型に変化していくため、移植後の血液型の変化を慎重にチェックし、輸血の際は適合血の確保を行って、輸血副作用の防止に努めているよ。
リンちゃん:
CD34陽性細胞ってなんですか?
ケンさん:
CD34陽性細胞とは、CD34という抗原を発現した細胞で、CD34は造血幹細胞に特徴的に発現していると考えられているよ。でも、ある程度成熟した細胞でもCD34は陽性となるので、CD34陽性細胞の集団は造血幹細胞を含んだ様々な段階の細胞の集団と言えるんだ。造血幹細胞移植の際には、移植される造血幹細胞の量をCD34陽性細胞数で代用し、目安としているよ。
りんちゃん:
造血幹細胞移植では、採取液に含まれるCD34陽性細胞数を知ることが大事なのですね。CD34陽性細胞数はどのように測定するのですか?
ケンさん:
現在当センターでは、フローサイトメーターという装置を用いて採取液中のCD34陽性細胞数を院内で測定しているよ。フローサイトメーターでの測定結果はグラフで表示され、臨床検査技師がグラフを解析するよ。解析することでCD34陽性細胞数がわかるんだ。CD34陽性細胞数の測定は、採取液が検査室に届いてから約1時間でできるよ。これによって造血幹細胞の採取量を速やかに把握する事ができるから、採取の継続・終了などの判断の目安となり移植治療に貢献しているよ。
フローサイトメーター CD34陽性細胞数(フローサイトメーター測定結果解析)
りんちゃん:
とても参考になりました。今日はありがとうございました。