兵庫県立がんセンターTIMES

がんセンタータイムズ

第5回 肺がんについて

代表的な疾患とそれに関係する検査を、経験豊かな臨床検査技師「ケンさん」と高校生「リンちゃん」との対話形式で紹介していきます。

    

リンちゃん:

こんにちは、ケンさん。今日は肺がんについて教えてくださるんですよね。

ケンさん:

やあ、リンちゃん、こんにちは。今日は肺がんについてだね。
肺がんといえば、たばこのイメージがあると思うけど、たばこを吸っていない人がなることも少なくないんだよ。患者さんは年間約8万人と、3番目に多いがんなんだけど、亡くなる方は一番多いんだ。
肺がんは症状に出てくることが少なくて、検診や他の病気でエックス線やCTを撮ったときに偶然発見されることが多いよ。症状が現れてきた場合にはすでに進行しているケースが多いから、 肺がんの治療は難しいと言われているんだけど、最近は新しい治療がどんどんできているんだ。今日はがんセンターの呼吸器内科専門医・里内先生が肺がんの治療について教えてくださるよ。先生、よろしくお願いします!

里内先生

ケンさん、リンちゃん、こんにちは。

リンちゃん:

里内先生、こんにちは!今日はよろしくお願いします。
肺がんの治療ってどのように変わってきているんですか?

里内先生:

以前は「細胞障害性抗がん薬」という点滴の抗がん剤が主役だったけど、最近は「分子標的治療薬」の種類が増えて使える人が増えたし、「免疫チェックポイント阻害薬」という免疫細胞を介してがんを攻撃する治療を組み合わせて治療することも多くなったんですよ。
それに伴って肺がんで抗がん剤を使おうとするときに行う検査もずいぶん変わったんです。

リンさん:

それはどういう薬ですか?

里内先生:

「細胞障害抗がん薬」というのは、細胞が増殖するときに細胞分裂が起こるんだけど、その仕組みのところを攻撃する薬剤なんですよ。がんは他の細胞と違ってどんどん増えるのが特徴だからその増えるところに作用するように、と考えられて作られたんです。 抗がん剤のイメージで「髪の毛が抜ける」とか「白血球などの細菌感染などから守る細胞が減ることで抵抗力が落ちる」という副作用がよく知られている薬で、古くから使われてるし、“抗がん剤”っていうとこういう薬のことをイメージされることが多いですね。
「分子標的治療薬」というのは、遺伝子に傷(遺伝子変異)がついて細胞に変化が起こることでがん細胞ができることに着目している治療です。がんはもともと自分の細胞なんだけど、遺伝子には色々傷がつくことがあって、その傷が積み重なると細胞の形や性格が変わってがんになると考えられています。 でも、その遺伝子の変化が入るとそれだけでがんになってしまうような大きな力を持ったものがあって、それを「ドライバー遺伝子変異」っていうんですよ。肺がんではそのような「ドライバー遺伝子変異」がいくつか見つかっていて、 それぞれの「ドライバー遺伝子変異」を狙って効くように作られた薬が「分子標的治療薬」です。大きな作用があるものを狙い撃ちにする薬だから、その変異を持っている人には効果が高くて、変異がない人には効かないんです。

里内先生:

「免疫チェックポイント阻害薬」は抗がん剤の一種だけど、がんそのものに作用するのではなくて、ウイルスなどの体にとって異物が体内に見つかったときに排除する役割を持った免疫細胞に作用する薬です。 免疫細胞には免疫反応を促進するアクセル物質と、反応を止めるブレーキ物質があるんだけど、そのブレーキ物質に効いてブレーキを外して、免疫反応によってがんを排除してもらおうっていう考え方で作られた薬なんですよ。

リンちゃん:

どうして免疫のブレーキを外すとがん細胞に効くんですか?

里内先生:

がん細胞はもともとがん患者さん自身の細胞なんだけど、さっき説明した遺伝子変異が起こっていくことでどんどん細胞の性格や形が変わって起こるんです。 普通なら細胞に変化が起こると「おかしな細胞が出てきたぞ」って免疫細胞が認識して攻撃して排除されるはずで、この働きで私たちが簡単にはがんになってしまわないように免疫細胞が守ってくれてます。
でも、がんになってしまった人は免疫細胞でがん細胞が排除できなかった人で、その原因はがん細胞が免疫のブレーキ物質を出していて、それで免疫細胞からの攻撃から逃れちゃってるからと考えられています。 「免疫チェックポイント阻害薬」はそのブレーキ物質を外すことで今まで免疫細胞からの攻撃から逃れていたがん細胞を攻撃できるようにしてがん細胞を排除する薬なんです。 ブレーキ物質はいろいろあるから、今ある「免疫チェックポイント阻害薬」では一部の人しか効果がないんだけど、効果が出た人の中には投与をやめても免疫細胞が働き続けてくれてずっと効き続けるような長い効果が出ることがあるんですよ。

リンちゃん:

色々薬が出てきたけど、どうやって使っているんですか?

里内先生:

「分子標的治療薬」や「免疫チェックポイント阻害薬」の効果がありそうかどうかを抗がん剤治療を始める前に「バイオマーカー検査」という検査をやって調べてから治療します。
「分子標的治療薬」は特定の遺伝子異常に効くんだけど、肺がんでは「分子標的治療薬」が使える「遺伝子変異」が6つ(EGFR遺伝子変異、ALK融合遺伝子、ROS1融合遺伝子、BRAF遺伝子変異、MET遺伝子変異、RET融合遺伝子)あって(2021年12月現在)、どんどんこの数が増えているんですよ。
これらの遺伝子変異があるのかないのかを、肺がんの診断をしたときに採取した組織を使って「遺伝子変異」の有無を確認する検査をすることが大事なんです。 例えば、EGFR遺伝子変異があれば、EGFR阻害薬を使うと効果が高いから、まずその薬を使うことを考えます。遺伝子変異はみんなに見つかるわけではないけれど、あればその薬を他の治療より先に使うことを考えていきます。

「免疫チェックポイント阻害薬」は代表的な免疫反応の「ブレーキ物質」である「PD-L1」というのを調べる検査をすることで「免疫チェックポイント阻害薬」が効きやすいかどうかを調べて、とても効きやすそうなら「免疫チェックポイント阻害薬」を1種類だけ使うとか、 そうでなければ、「細胞障害性抗がん薬」と組み合わせたり、2つの「免疫チェックポイント阻害薬」を組み合わせて使うとか、「PD -L1」の結果を見て使い方を考えています。

これらの「遺伝子変異検査」と「PD-L1検査」を合わせて「バイオマーカー検査」っていうんだけど、バイオマーカー検査の結果で治療方針が大きく変わるので、肺がんで抗がん剤治療をするときには欠かせない検査なんです。

ケンさん:

これらの検査は僕たち臨床検査技師が行っているんだ。

リンちゃん:

バイオマーカー検査って大事な検査なんですね。

里内先生:

進行肺がんで抗がん剤治療をするには必須の検査と言われていて、この検査によって一番効きそうな薬を選ぶ参考になるから治療前にできるだけやった方がいいんです。
なので、診断がついてから、さらに2週間くらいかけて検査を行います。
よほど進行が早くて待てない場合は先に治療することもあるけど、多くの場合は結果を待ってから治療したほうが、長い目で見て結果はよくなると考えられているんです。
バイオマーカー検査には患者さんのがん組織が必要で、診断の時の組織を使うことが多いけど、場合によってはバイオマーカー検査のために組織を取り直すってことを相談させてもらうこともあります。

リンちゃん:

肺がんだったら同じ治療なのかと思ったけど患者さんによってそれぞれ違うんですね。

里内先生:

オーダーメイド治療なんて呼ばれることもあるけど、がんの性質を「バイオマーカー検査」で調べておいて合う薬を見極めて、その上で患者さんの合併症、体調、考え方も聞いて患者さんそれぞれで考えます。
治療は1種類で終わるわけではないので、一緒に考えてできるだけ長く上手く付き合えるよう治療していく時代になってきているんですよ。

リンちゃん:

肺がんの治療はどんどん進化しているんですね!先生、今日はありがとうございました。

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