第4回 肝臓がんについて
代表的な疾患とそれに関係する検査を、経験豊かな臨床検査技師「ケンさん」と高校生「リンちゃん」との対話形式で紹介していきます。
リンちゃん:
こんにちは、ケンさん。今日は肝臓がんの検査について教えて下さい。
ケンさん:
こんにちは、リンちゃん。ではまず、肝臓がんの病気のことについて説明するよ。
肝臓がんには肝臓から発生する原発性と他の臓器のがんが肝臓に転移する転移性があって、転移性は原発性の約20倍の頻度と言われているんだ。
リンちゃん:
転移性の肝臓がんの方が随分多いんですね。
ケンさん:
そうなんだ。だけど一般的に肝臓がんというと原発性肝がんのことを指していて、原発性肝がんには、肝臓の細胞ががん化してできる肝細胞がんや肝臓内を通る胆管ががん化した肝内胆管がんがあって、9割以上が肝細胞がんなんだ。
リンさん:
肝細胞がんの原因ってわかっているんですか?
ケンさん:
肝細胞がんの原因は、約60%がC型肝炎ウイルス(HCV)、約15%がB型肝炎ウイルス(HBV)なんだ。肝炎ウイルス以外の肝がんの原因としては、アルコール性肝炎、非アルコール性脂肪肝炎(NASH、ナッシュ)などがあるんだ。 NASHというのは、肥満を背景にした生活習慣病、とくに脂肪肝が進行して肝炎となる疾患なんだよ。C型肝炎の治療が進んでウイルス性肝炎から肝がんになる患者さんは減ってきているんだけど、その代わりにこのNASHから肝がんになる患者さんは増えてきているんだよ。
どの場合においても、肝炎という炎症によって肝細胞の破壊と再生が繰り返され、それが持続すると線維化がおこり肝硬変になっていき、そのうちに遺伝子の突然変異がおこり、それが蓄積してがんを発症するんだ。
リンちゃん:
肝炎ウイルスの治療が進歩してがんになる人が減ってるのは良いことですね。でも、脂肪肝から肝がんになるんだったら、生活習慣にも気を付けないといけないですね。
ケンさん:
そうだね。脂肪肝は自覚症状がないので放っておきそうになるけど、ちゃんと検査をして肝臓の状態を調べておかないといけないね。
じゃあ次に、検査の話をするね。まずは、血液検査。肝細胞がんの場合はさっき言ったように肝炎や肝硬変によって、肝細胞が壊れるので肝細胞内にあるLDやAST、ALTなどの酵素が血液中に出てきて値が高くなるんだ。 また、腫瘍が胆管の通りを妨げると胆汁の流れが悪くなって、ALP、γ-GTやビリルビンが上昇するよ。あとは、前回説明した腫瘍マーカーがあるね。AFP(アルファフェトプロテイン)やPIVKA-Ⅱ(ピブカ-ツー)などが肝細胞癌では高値になり、肝内胆管癌ではCEAやCA19-9が高くなるよ。 また、転移性肝がんなら、その原発がんに由来の腫瘍マーカーが上昇するよ。
リンちゃん:
がんの種類によっていろいろな腫瘍マーカーがあるんでしたね。
ケンさん:
次に肝臓の画像検査だけど、腹部超音波検査(腹部エコー)、CT検査、MRI検査、血管造影検査、腹腔鏡検査などがあって、僕たち臨床検査技師が関わるのは、腹部超音波検査だよ。
腹部超音波検査は肝臓の大きさや形、腫瘤の有無を確認でき、簡便で非侵襲的だから、肝臓の状態を知りたいときによく行われる検査だよ。ただ、体格が大きいと奥の方が見えにくくて評価できないことが欠点だね。
では実際の肝臓がんの超音波画像を見てみよう。
原発性肝細胞がん
中央に約4cmの丸い腫瘤があるだろう。これが原発性肝細胞がんだよ。腫瘤の周囲には黒く見える層があり、中心部が不均一になっているのをモザイクパターンと言って、肝細胞がんの典型的な像だよ。
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肝内胆管がん(白矢印)
拡張した肝内胆管(黄色矢印) -
上の画像は肝内胆管がんの超音波画像だよ。肝内胆管がんは肝臓内の胆管から発生したがんで明瞭な腫瘤は確認出来ないことが多くて、がんによって肝内の胆汁が流れる道が閉ざされ、胆管が拡張することで見つかることが多いよ。この画像でも分かりにくいけど白矢印の部分にがんの腫瘤があり、黄色矢印の肝内胆管が拡張しているよ。
次の画像は転移性肝がんで2~3cmの腫瘤が多数あるね。転移性はこのように腫瘤が多発することが多いんだよ。
大腸癌の肝転移
胃癌の肝転移
また、最近は超音波装置にShear wave Elastographyという新しい機能があって、肝臓の硬さをを調べることができるんだ。肝臓がどれだけ線維化が進んで硬くなっているかを見ることができるから、肝がんになるリスクが高い人には硬さを定期的に見ていくよ。 この装置で計測した数値の平均が2.0以上になると肝硬変の疑いがあると判断するんだよ。
左:カラー表示 右:等高線表示
リンちゃん:
へえ、超音波検査も進化しているんですね。肝臓の硬さが数値で表されると、実感がわきやすく、気をつけるきっかけになりそうですね。
今日はありがとうございました。