第11回 HPVの検査とワクチン
代表的な疾患とそれに関係する検査を、経験豊かな臨床検査技師「ケンさん」と高校生「リンちゃん」との対話形式で紹介していきます。
ケンさん:
今回のテーマは、ヒトパピローマウイルスだよ。Human Papilloma Virusの頭文字をとってHPV(エイチピーブイ)とも言われるんだけど、聞いたことあるかな?
リンちゃん:
確か、がんに関係するウイルスですよね。
ケンさん:
よく覚えているね。今日は、一見全く違う病気のように思えるウイルス感染症とがんの関連について、婦人科の山本香澄先生に詳しく教えて頂きます。先生、よろしくお願いします。
山本先生:
ケンさん、リンちゃん、よろしくね。
早速だけど、HPVは婦人科疾患の一つである子宮頸がんをはじめとして、肛門がんや尖圭コンジローマなど、多くの病気の発生に関わっています。こう聞くと、とても怖いウイルスのように思えるけど、実は感染すること自体は珍しいことではないし、感染しただけでは特に症状はないんですよ。
リンちゃん:
では、どうやってがんになるんですか?
山本先生:
そもそも、HPVは性行為で感染することが知られていますが、感染しても多くの場合は免疫の力で自然に体から排除されるんです。でも、この免疫機能がうまく働かずに長い間感染が続くことで、がんになると考えられていて、特に近年は若い女性の子宮頸がんが増えているんですよ。
リンちゃん:
子宮頸がん?
山本先生:
子宮の入り口のところを子宮頸部と言って、そこに発生するがんを、子宮頸がんと呼びます。実はHPVにもいろいろな「型」があって、中でも16型や18型を中心に15種類くらいが、子宮頸がんになるリスクが高い型として知られているんです。
リンちゃん:
そういった型のHPVに感染すると、子宮頸がんになる可能性が高くなるってことですね。
感染したり、子宮頸がんになるのを防ぐためにはどうすればよいですか?
山本先生:
子宮頸がんは、ワクチンと検診で予防することができる病気なんです。
厚生労働省は、20歳から2年に1度の定期的な検診を推奨しているんですよ。
リンちゃん:
子宮頸がんの検診ってどんなことをするんですか?
山本先生:
検診では、子宮頸部を専用のブラシやへらでこすって細胞を採り、異常な細胞がないか顕微鏡で調べています。
ケンさん:
左の写真が正常細胞で、右がHPVに感染した細胞だよ。HPV感染細胞は、細胞の中にある核の周囲が透明に抜けて見えるのが特徴で、専門用語ではコイロサイトーシスというんだ。
正常細胞(扁平上皮細胞) 異常細胞(HPV感染細胞)
リンちゃん:
こうやって検査するんですね。20歳になったら、検診に行ってみます。
そういえば、友達がHPVのワクチンを打ちに行くと話していました。ワクチンについても教えてください。
山本先生:
よく「ワクチンって本当に効果あるの?」とか「副反応が怖い」と心配される方もいらっしゃいますが、HPVワクチンは有効性と安全性が確認されていて、副反応のデメリットよりも予防のメリットの方が大きいことが分かっているんですよ。だた、この予防効果は接種時の年齢が高いほど弱くなってしまうんです。
リンちゃん:
HPVワクチンを接種する年齢は決まっているのですか?
山本先生:
日本では、小学6年生から高校1年生くらいまでの女性を対象にHPVワクチンの定期接種が行われています。また、公費での接種機会を逃した方(1997年4月2日~2007年4月1日生まれ)に対しても、2022年4月から2025年3月まで公費でHPVワクチンを接種することができます。
ちなみに、接種するワクチンの種類(2価ワクチン(サーバリックス)、4価ワクチン(ガーダシル)、9価ワクチン(シルガード9))や年齢によって、接種のタイミングや回数が異なっているから注意してね。
標準的なワクチン接種スケジュール(厚生労働省ホームページから引用、令和6年3月時点)
リンちゃん:
HPVワクチンは、どの程度効果があるのですか?
山本先生:
ワクチンの種類によって、子宮頸がんの原因の50~90%防ぐことができるけれど、決して100%予防できるわけではないんですよ。それにHPVワクチンは接種前に感染している体内のウイルスを排除したり、すでに生じたがんの進行を防ぐ効果はないんです。ワクチンで予防できないタイプのウイルス型もあるから子宮頸がん検診による二次予防をあわせて実施することが大切なんですね。
リンちゃん:
なるほど。よく分かりました。
ワクチンの事、しっかり理解したうえで接種することが大事ですね。今日はありがとうございました。