第10回 ウィルス検査
代表的な疾患とそれに関係する検査を、経験豊かな臨床検査技師「ケンさん」と高校生「リンちゃん」との対話形式で紹介していきます。
リンちゃん:
最近新型コロナウイルスの話題が多くて、抗原検査だとかPCR検査だとかよくわからないんです。
ケンさん:
じゃあ、今日はウィルス検査の話をするね。ただし、ここはがんセンターだから、がんに関係したところで話をするよ。
リンちゃん:
まずウィルスって何ですか。
ケンさん:
いきなり難しいことを聞くね。ウィルスはDNAやRNAといった核酸とそれを囲むタンパク質から構成される粒子なんだよ。自分だけで増えることができないから生物とは言いにくい存在なんだ。生物の細胞に入り込んで、その細胞の仕組みを利用して増えるんだ。
リンちゃん:
ウィルスは生物ではないんですね。じゃあ抗原とか抗体っていうのは何ですか?
ケンさん:
抗原というのはウィルスが持っている特有のタンパク質のことなんだ。抗原検査はこのウィルスが持つ特有のたんぱく質(抗原)を検出する検査で、抗原検査が陽性になるとウィルスが体内に存在するということになるよ。 抗体は体内に入ってきたウィルスをやっつけるために、人のリンパ球が作ったタンパク質で、抗体検査は抗体が血液中にあるかどうかを調べる検査だよ。抗体検査が陽性だと、過去にそのウィルスに感染したことがわかるんだ。 十分な量の抗体が作られると、ウィルスはやっつけられてウィルス抗原は消えるんだよ。
リンちゃん:
じゃあ、PCR検査はどういう検査なんですか?
ケンさん:
PCRはPolymerase Chain Reactionの略語だよ。ポリメラーゼ連鎖反応と訳されるんだ。特定の遺伝子の一部をポリメラーゼという酵素で増幅して検出する方法だよ。僅かな量の遺伝子も増幅して検出できるから、抗原検査で検出できないほど少ないウィルス量でも検査が可能なんだ。
リンちゃん:
抗原検査よりPCR検査のほうがいいんですか?
ケンさん:
そうとも言えないんだ。確かに、PCR検査は少ないウィルスを見つけることはできるけど、時間がかかるんだ。 抗原検査はPCR検査よりウィルスの検出率は下がるけど、短時間で結果が出て、簡単で安価だから、スクリーニング検査(大勢の人の中から、病気の疑いのある人を見つけ出す検査)には向いているよ。 また、PCR検査は失活したウイルスも検出してしまうから、結果の解釈には注意が必要なんだ。
リンちゃん:
PCR検査がいいという訳でもないんですね。ところで、がんに関係したウィルスってどのようなものがあるんですか?
ケンさん:
B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスが肝がんの原因となっていることはよく知られているね。ワクチン接種で話題になった、子宮頸がんの原因となっているヒトパピローマウイルスなんかもあるよ。 そのほかエプスタイン・バーウィルスやヒトT細胞白血病ウィルスも特定のがんと関係しているんだ。(表)
表:がんの発生に関係するウィルス
原因となっているウイルス | がんの種類 |
---|---|
B型肝炎ウィルス(HBV) C型肝炎ウィルス(HCV) |
肝細胞がん |
ヒトパピローマウィルス(HPV) | 子宮頸がん、陰茎がん、外陰部がん、膣がん 肛門がん、口腔がん、中咽頭がん |
エプスタイン・バーウィルス(EBV) | 上咽頭がん、バーキットリンパ腫、ホジキンリンパ腫 |
ヒトT細胞白血病ウィルスI型(HTLV-I) | 成人T細胞性白血病/リンパ腫 |
がん情報サービスより一部改変
リンちゃん:
いろんながんの発生にウィルスが関係しているんですね。
ケンさん:
そうだよ。これらのウィルスについては抗原・抗体検査やPCR検査を行っているよ。その結果によってワクチン接種の適応が決まったり、がんの診断ができたりするんだ。 また、他のウィルスでも、がん治療で体の免疫能力が落ちると重症の感染症を引き起こす可能性があるウィルスについては、検査を行っているんだ。新型コロナウィルスもその一つなんだ。当院でも院内でPCR検査をやっているよ。
リンちゃん:
ウィルスってがんの診療にもかかわっているんですね。
ケンさん:
だからウィルス検査は、がん診療にも重要なんだ。
リンちゃん:
はい、よくわかりました。今日はありがとうございました。