兵庫県立がんセンターTIMES

がんセンタータイムズ

第9回 貧血について

代表的な疾患とそれに関係する検査を、経験豊かな臨床検査技師「ケンさん」と高校生「リンちゃん」との対話形式で紹介していきます。

ケンさん:

やあ、リンちゃん。こんにちは。今日はどうしたの、浮かない顔をして。何かあったの。

リンちゃん:

こんにちは、ケンさん。実は先日献血をしに行ったんだけど、ヘモグロビン(Hb)が足りないので献血できませんと言われたんです。

ケンさん:

それはヘモグロビン(Hb)が献血基準を満たさなかったんだね。400mlの全血の献血をするには男性で13.0g/dl、女性で12.5g/dlのヘモグロビン(Hb)が必要なんだ。献血ができなかったから貧血というわけではないけど、今日は貧血の話をしようか。

リンちゃん:

お願いします。

ケンさん:

まずは貧血とはどのようなものかということだね。日常「貧血」と言っているけど、いわゆる「脳貧血」なんかも含まれているので貧血の定義をはっきりさせよう。 貧血とは「循環赤血球量の低下」と定義されているんだ。WHOでは15歳以上の男子ではヘモグロビン(Hb)が13.0g/dl以下、女性では12.0g/dl以下とされているんだ(表1)。

年齢・性別 ヘモグロビン(Hb)(g/dL)
6ヵ月以上5歳未満 11.0以下
5歳以上12歳未満 11.5以下
12歳以上15歳未満 12.0以下
15歳以上女性(妊婦以外) 12.0以下
妊婦 11.0以下
15歳以上男子 13.0以下

リンさん:

年齢や性別で基準となる値が違うんですね。

ケンさん:

そうなんだ。貧血は簡単に言うと赤血球の生産量が減っているか、赤血球の消費量が上がっているかという状態なんだ。貧血の原因は大体どちらかに分類されるんだ。赤血球の生産量が減っているのは、鉄とかビタミンなどの材料不足や、赤血球の工場である骨髄がちゃんと働いていない場合だよ。 消費量が上がっているのは出血や溶血(血液中の赤血球が何らかの原因で壊れ、赤血球中に含まれるヘモグロビン(Hb)が流出すること)が起こっているときなんだ。

リンちゃん:

貧血は原因で分けられるんですね。

ケンさん:

赤血球の大きさを調べるとその原因を知るきっかけになるよ。血液検査の結果を見るとMCVという数値があるのを知ってる?

リンちゃん:

あまり気にしていませんでした。

ケンさん:

ヘモグロビン(Hb)やヘマトクリット(Ht)の次ぐらいに書いてあることが多いよ。MCVは平均赤血球容積のことでヘマトクリットを赤血球数で割ったものだよ。MCVが101以上だと大球性貧血、81~100だと正球性貧血、80以下だと小球性貧血というよ。 多くの貧血は正球性貧血が多いんだけど、小球性貧血や大球性貧血には注意が必要なんだ。小球性貧血の代表的な疾患は鉄欠乏性貧血やサラセミアで大球性貧血の代表的な疾患は巨赤芽球性貧血だよ(表2)。

機序 代表的疾患
小球性貧血 赤血球産生の
低下
ヘモグロビン(Hb)合成障害 鉄欠乏性貧血、鉄芽球性貧血、サラセミア
正球性貧血 造血幹細胞の異常 再生不良性貧血、赤芽球癆、骨髄異形成症候群
造血細胞の減少 造血器腫瘍、骨髄癌腫症、抗がん薬使用
エリスロポエチンの低下 腎性貧血
赤血球の
喪失
赤血球の異常による溶血 遺伝性球状赤血球症、発作性夜間血色素尿症
赤血球以外の異常による溶血 自己免疫性溶血性貧血、溶血性尿毒症症候群、播種性血管内凝固症候群
出血 外傷、消化管出血、性器出血
大球性貧血 赤血球産生の
低下
DNA合成障害 巨赤芽球性貧血
赤血球産生の低下 骨髄異形成症候群

リンちゃん:

貧血だと鉄分が足りないのかな?と思ってしまうんですけど。鉄分をたくさん含んだ食べ物を食べたり、サプリメントを飲んだりしたらいいのかなと思うんですが。

ケンさん:

確かに鉄欠乏による貧血の頻度は高いんだけど、鉄欠乏の原因が問題なんだ。食事での摂取不足だけが原因の人は少ないよ。 慢性的な出血が隠れていることがあって、特に中年以降の鉄欠乏性貧血は消化管の出血や不正性器出血などの存在を疑わなければならないよ。貧血をきっかけに胃がん、大腸がん、子宮頸がんが見つかる場合もあるよ。。

リンちゃん:

鉄を補給すればよいということではないんですね。鉄が足りなくなっている原因を調べないといけないんですね。

ケンさん:

一方で大球性貧血は、ビタミン不足が原因のことが多いよ。ビタミンB12や葉酸の不足で起こる巨赤芽球性貧血が代表疾患だよ。 これらのビタミンが食事のせいで不足していることは少ないけど、胃の手術後や慢性胃炎などがあって吸収障害があると起こってくるよ。ビタミンを注射などで摂取すれば改善するよ。

リンちゃん:

ビタミン不足は胃に原因があるんですね。

ケンさん:

鉄剤やビタミンを投与しても改善しない貧血については、骨髄異形成症候群などの血液疾患であることがあるので、専門病院に相談するべきだよ。

リンちゃん:

貧血といっても色々あって大きな病気のサインになっているものもあるんですね。

ケンさん:

貧血を侮ってはいけないんだ。

リンちゃん:

はい、よくわかりました。今日はありがとうございました。

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