乳腺外科の最新トピックス
乳腺外科 金昇晋医師 インタビュー

今回のインタビューは乳腺外科の診療状況について、乳腺外科 金昇晋医師にお話を伺いました。
まず、乳腺外科についてお聞かせください。
近年、日本において乳がん患者が増加しています。
2022年の厚生労働省の人口動態統計では1年間で約97,000人の女性が新たに乳がんと診断され、第2位の大腸がん約68,000人を大きく引き離し第1位です。この数字は一般女性9人に1人が乳がんになると推測される頻度です。一方、乳がんの死亡数は年間16,000人で、大腸がん25,000人、肺がん23,000人、膵がん20,000人(それぞれ概数)に次いで女性のがん種の中で第4位です。このことから、乳がんは基本的に罹患リスクは高いものの、比較的治りやすいがん種であると言えます。しかし、40代〜60代前半までは乳がんが最も高率です、つまり、子育て世代や社会で活躍する世代の女性にとっては、最も“脅威”となるがんです。
当科は6名のスタッフで、播磨・淡路地域のみならず、兵庫県の乳がん診療のレベル向上に努めています。
最近の診療実績はいかがでしょうか。
乳がん診断において、視触診、マンモグラフィー、超音波検査は必須の検査です。最近では、質的診断及び乳腺内の広がり診断のために造影MRI検査も殆どの場合に実施しています。確定診断は、針生検(CNB)や吸引補助下針生検(VAB)などの病理組織検査で行いますが、それらで確定診断が困難な場合は、摘出生検を実施します。乳がんは、がん種の中では良悪の鑑別が困難な場合も多く、診断には慎重を期しています。当センターで実施している特殊検査として下記の2つを紹介します。
①トモシンセシス下VAB:石灰化だけが唯一の症状という乳がんがあります。主にマンモグラフィー検診で発見され、非浸潤性乳がんのことが多いのですが、診断のためにマンモグラフィー(あるいはトモシンセシス)を撮影している状態でVABを行い標的の石灰化を採取し病理学的に確定診断を行う検査です。
②MRIガイド下VAB:乳腺造影MRI検査は、感度は非常に高い反面、特異度が低いため、同検査でしか分からない副病変が数多く見つかり、娘結節や乳がんの進展などと区別が困難なことがあります。これらは時に乳房全摘か温存手術かなど術式選択に大きな影響を及ぼします。このような疑わしい病変の確定診断をつけるために行うのが本検査で、2018年に保険診療になりました。当時実施可能な施設は全国で13施設、兵庫県下では当センターだけでした。
乳がんの手術について教えてください。
乳がん手術は大きく分けて、①乳房切除術、②乳房温存手術、③乳房再建手術があります。乳がんの大きさ、乳房内での広がり、副病変の有無、乳房の大きさとのバランスなどを考慮し患者さんと相談しながら決定しています。切除に際し、より傷跡が目立ちにくい内視鏡補助下での手術も実施しています。また、全摘した上で同時乳房再建(一次再建)や、後日に再建術(二次再建)を行うこともあります。今まで当センターでは、 同時再建はインプラント法のみでしたが、2023年からは自家組織を用いた同時再建を、さらに2024年からは②の一種ですが広範囲部分切除に広背筋再建を組み合わせた整容性に優れた手術も実施しています。 腋窩リンパ節に関して、臨床的にリンパ節転移を認めない場合は、標準術式であるセンチネルリンパ節生検を行っています。その取り扱いに関しても、温存手術予定の場合は、センチネルリンパ節に転移があった としても2個以内であればリンパ節郭清を省略するという、より縮小手術になる可能性が高い方針で臨んでいます。
また新しい取り組みとして、手術自体を省略する治療方法を紹介します。ラジオ波焼灼術(RFA)と言う方法で、細い電極針を病巣に刺し電流を流して熱を発生させてがんを焼灼(死滅)させます。主に肝がんなどで用いられる治療法ですが、乳がんに対しては2023年末に保険収載されました。1.5cm以下の単発限局性の早期乳管がんの患者さんが対象で、他にも実施には細かい要件がありますが、“切らない乳がん治療”として新たな選択肢になると思われます。2024年12月の時点で兵庫県下では2施設しか実施できませんでしたが、2025年4月から当院でもようやく実施できるようになりました。
最後に患者さんへのメッセージをお願いいたします。
当科は外来完全予約制を導入しており、乳腺悪性腫瘍に特化した診療を目指しています。当科初診を希望される方は、近隣医療施設より当院地域連携室に診察予約をおとり下さい。外来診療は月~金、毎日行っております。 当科は、新規患者さん以外にも、多くの術前・術後、さらには再発治療中の再診乳がん患者さんを診療しています。特に再発治療の患者さんは、治療に難渋していたり、病状が重症であったり、多くの場合診療に十分な時間を要します。そのため、しばしば予定通りの診療時間が守られず、待ち時間が長くなったり、診療終了時間も大幅に遅れることがあります。患者の皆様には大変ご迷惑をお掛けすることになりますが、上記の事情に鑑みご容赦のほどよろしくお願い致します。
金医師、ありがとうございました。