兵庫県立がんセンターTIMES

がんセンタータイムズ

腫瘍循環器科の最新トピックス

腫瘍循環器科 野中顕子医師 インタビュー

53b2a6221e91edb405963c67a7dd116a-1738630345.jpg

今回のインタビューは腫瘍循環器科の診療状況について、腫瘍循環器科 野中顕子医師にお話を伺いました。

まず、腫瘍循環器科についてお聞かせください。

当科は『腫瘍循環器科』といいます。

『がん患者さんのための循環器診療』 をしています。
高齢化社会の影響で、がん患者さんも循環器病の患者さんも増えており、その両方にかかってしまう方も少なくない昨今です。
従来からある一部の抗がん剤だけでなく、次々と開発される新しいがん治療薬は、有効性は高いのですが、その副作用で血圧が高くなったり、血液が固まる(血栓)病気、心臓の病気が新たに起こることがあります。
がん治療による循環器合併症はすべてが防げるわけではありませんが、『循環器病をコントロールしながら安全にがん治療を受けていただく』 ため、腫瘍循環器科は生理検査チームなど多職種と連携し、循環器合併症の早期発見のための仕組みを皆で考え、必要に応じた治療介入(主に内服などの薬物治療)をしています。
心臓カテーテル検査やカテーテル治療、ペースメーカー植え込みなど、当科で対応できない治療もありますが、その時は近隣の連携病院へ速やかに紹介します。
動悸や息切れなど、循環器疾患が疑われる症状があれば、遠慮なさらずにまずは主治医や看護師さんとご相談なさって当科に受診にいらしてください。

最近の診療実績はいかがでしょうか。

2023年度は、腫瘍循環器外来コンサルトが1,461件、心臓超音波検査(経胸壁)2,897件、心筋シンチグラフィー検査が13件、下肢静脈エコー検査が2,447件、心臓MRI検査が18件、新規CTRCD(がん治療関連心機能障害)27件、新規irAE心筋炎(免疫チェックポイント阻害薬の副作用の心筋炎)39(疑いも含む)、新規CAT(がん関連血栓症)449件の診療をおこないました。

また、202410月より『がんサバイバー向けの心血管フォローアップ外来』を開設しました。

がんサバイバー向けの心血管フォロー外来について詳しく教えてください。

がん治療前、がん治療中、そしてがん治療終了後。

いずれの時期においても我々“腫瘍循環器科”が関わるべき機会が増加しています。

抗がん剤治療中の重症心不全発症を予防するため、心エコー検査時にGLS(Global Longitudinal Strain)を測定し、優位な低下があれば直ちに主治医または腫瘍循環器医に報告する体制を構築しました。それ以降、重症心不全として発症するがん治療関連心機能障害(CTRCD)はほぼ回避できています。CTRCDが認められたとしてもがん治療継続可能な程度の軽症心不全であることが多く、外来にて心保護薬を継続しながらのがん治療完遂が可能であります。

しかしながら、がんの治療終了後の心不全に関しては、呼吸困難などの“心不全症状”(=重症心不全の状態)が出現してから受診されることがほとんどであり、もっと早いタイミングでの心不全診断・心不全治療が開始できなかったかと反省する症例が依然として認められました。

その対策として何かできることはないかと考えた結果、がん治療関連の心血管疾患リスクのある患者さんが気軽に心臓血管疾患のスクリーニング外来受診できるようにという思いのもと、『心血管フォローアップ外来』の開設に至りました。

アントラサイクリン系抗がん剤の使用歴、左胸部や縦隔への放射線治療歴、長期にわたる免疫チェックポイント阻害剤使用歴のある患者さんなどを対象としていますが、抗がん剤治療内容の詳細がわからない場合も心血管疾患が懸念されるなら、まずは受診していただくことも可能です。現在、がんサバイバーのための心血管フォローアップ手帳を作成中であり、フォローアップ外来受診された時点でのがん治療歴のまとめを患者さんにお渡しできるように調整中です。がんの治療歴、心エコー所見、BNPなどで現状を評価して、患者さんごとのフォローアップ体制を決めて行けたらと思っております。

心血管フォローアップ外来の受診について教えてください。

成人されている方に限りますが、当院でのがん治療歴のある患者さんだけでなく、当院でのがん治療歴が無いサバイバー患者さんも、当院の心血管フォローアップ外来受診が可能です。

かかりつけ医の先生のところでフォローされている中に該当する患者さんがおられましたら、地域連携を通してご予約いただく、もしくは、患者さんがご自身で当院のがん相談支援センターまで電話連絡いただき診察予約を取得することも可能です。

がん治療による重症心血管合併症の発症予防を目標にしておりますので、重症心不全を発症されてしまっている患者さんの場合は、当院フォローアップ外来での受け入れは困難なこともあるかもしれず、地域の総合病院の先生方のご協力も仰ぐこととなると思われます。また逆にステージABの軽症心不全段階の場合も、日々の降圧剤・心保護薬の投与などクリニックの先生方に連携・サポートしていただくことになるかと思われます。

最後に患者さんへのメッセージをお願いいたします。

当科は5年半前から2人体制に増員され、診療の幅が広がりました。

始まったばかりでまだ具体的な運用はこれからですが、ご質問などあればいつでも腫瘍循環器科野中または福田までご連絡いただけますと幸いです。

自施設での治療歴のない患者さんもフォローの対象である、そのような病院が全国に広まれば、がんサバイバーがより自由度の高い生活を送れる様になると思われます。成人サバイバーにとっての日本初の試みでもあります。本来であれば、社会面、就労面、メンタル面などトータルでのサバイバー外来というのがあるべき診療体制と思いましたが、そのためには当科のみで対応できることではなく、今のところは心血管合併症に限定した心血管フォローアップ外来とさせていただきました。まだ何か不足している点などあるかもしれません。遠慮なくご指導いただければ幸いです。

何卒よろしくお願い申し上げます。

野中医師、ありがとうございました。

一覧に戻る

TOP