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婦人科 山口聡医師 インタビュー

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今回のインタビューは婦人科の最近の状況について、婦人科 山口聡医師にお話を伺いました。

まず、診療実績についてお聞かせください。

当科では婦人科悪性腫瘍とその前駆病変の診断および治療、そして再発がんに対する治療や緩和医療を行っています。また、遺伝性腫瘍に対する予防的手術やサーベイランスも行っています。手術および化学療法、放射線治療、治療終了後の経過観察もすべて婦人科で行っています。20244月現在、婦人科常勤医:10名(婦人科腫瘍専門医6名、日本産科婦人科内視鏡学会術認定医3名)、専攻医2名で診療にあたっています。対象となる主な3大疾患の2023年の新規治療症例は、子宮頸がん:107例、子宮体がん:166 例、卵巣がん(卵管がん、腹膜がん含む):85例で、症例数が全国3位に入る婦人科がんのハイボリュームセンターとなっています。手術に関しては開腹手術のみならず、腹腔鏡下手術やロボット支援下手術も積極的に導入しており、近年その症例数は増加しています。2023年の手術症例数645例で、腹腔鏡下手術:182 例、ロボット支援下手術:57例でした。子宮頸癌の手術不適症例には、根治的な放射線治療も行っており、小線源治療(腔内照射や組織内照射)も実施可能です。

最近の診療内容はいかがでしょうか?

ここ数年の間に婦人科がん治療においても免疫チェックポイント阻害薬が使用できるようになり、治療戦略が大きく変換してきています。免疫チェックポイント阻害薬とは、がん細胞を攻撃するT細胞の働きにブレーキをかけている蛋白質であるPD-1PD-L1の結合を阻止し、PD-L1により抑えられていたT細胞の働きを活性化することで抗腫瘍効果を発揮させる薬です。202112月、抗PD-1抗体であるぺムブロリズマブがマルチキナーゼ阻害薬であるレンバチニブとの併用療法として「がん化学療法後に増悪した切除不能な進行・再発の子宮体癌」に対して承認されました。従来の化学療法に加えて新たな治療選択肢が増えたことは臨床の現場でも大きなインパクトがありました。子宮頸癌においては20229月、ペムブロリズマブが化学療法(パクリタキセル+カルボプラチン±ベバシズマブ)との併用療法として「進行又は再発の子宮頸癌」に対して承認されました。従来の治療法にペムブロリズマブを上乗せすることで全生存期間の延長が示され、患者さんにとって大きなメリットになる可能性があります。さらに202212月に同じく抗PD-1抗体であるセミプリマブが「癌化学療法後に増悪した進行または再発の子宮頸癌」に対して承認されました。当院での使用経験も増加してきています。免疫チェックポイント阻害剤は適応がある患者さんには積極的に投与を検討しますが、がんの特性によって治療効果が異なる可能性があるため、実際には患者さんごとに投与を行うかどうかを慎重に判断するようにしています。また、従来の化学療法では起こらなかった様々な免疫関連副作用が起こる可能性があり、時には重篤な副作用を経験することもあります。そのため投与開始にあたっては様々な検査を行い、安全に投与可能であるかどうかを慎重に判断するようにしています。必要時には腫瘍循環器科や糖尿病内分泌内科、呼吸器内科等と緊密な連携をとって迅速に対応するよう心掛けています。また、卵巣がんにおいてはPARP阻害薬であるオラパリブやニラパリブが化学療法後の維持療法として使用できるようになり、進行卵巣がん患者の予後も大きく改善してきています。

最後に患者さんへのメッセージをお願いいたします。

婦人科がん治療はまさに変革期にあるといえますが、我々の使命は患者さん一人一人にとって最適な医療をお届けすることであると考えています。治療の選択においては最新のエビデンスに基づいて、個々の患者さんにとってのメリットとデメリットを十分に吟味して検討しています。新薬の治験等にも積極的の取り組み、婦人科がんのハイボリュームセンターとして、皆様の信頼に応えられるよう、より一層精進してまいります。

山口医師、ありがとうございました。

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