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整形外科 藤田郁夫医師 インタビュー

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今回のインタビューは骨転移の最近の状況について、整形外科 藤田郁夫医師にお話を伺いました。

骨転移について詳しく教えてください。

近年のがん治療の進歩により治療成績が向上し、進行がんであっても長期生存する患者さんが増加しています。進行がんでは、骨転移が生じることが少なくなく、日本では年間に8千から16万人の骨転移患者が発生すると見積られています。骨転移は、臓器などに発生したがん細胞が血流にのって骨に転移するため、血流の豊富な脊椎、骨盤、大腿骨、肋骨に好発します。骨転移の頻度が高いがんの種類としては乳がん、前立腺がん、肺がん、甲状腺がんなどが知られています。骨転移が進行すると、放射線治療や手術が必要な痛み、脊髄圧迫、病的骨折、高カルシウム血症が発生し、それらは骨関連事象(skeletal related event: SRE)と呼ばれます。SREが生じると、生活の質(QOL)が低下するだけでなく、生命予後まで影響する場合があります。従って、骨転移と診断された場合は、薬物療法、放射線治療、手術、リハビリテーションなどを組み合わせて早期に介入しSREの発生を予防する必要があります。当院では、各分野の専門医が、協力してチーム医療で骨転移に対応しています。

骨転移のチーム医療について教えてください。

2015年に「病的骨折ゼロ、脊椎麻痺ゼロ」を目標に骨転移キャンサーボードを立ち上げ、毎週1回開催しています。現在は、「肉腫・骨転移カンファレンス」の名称で骨軟部などの肉腫も対象としています。整形外科、腫瘍内科、放射線治療科、放射線診断科、原発腫瘍の担当科の医師、理学療法士、作業療法士などが参加しています。主に整形外科や放射線治療科への紹介症例、主治医からの相談症例などがエントリーされ、現在まで骨転移1000例以上を検討しています。骨転移の診断、骨折や麻痺のリスク評価、手術や放射線治療などの治療方針から、装具、リハビリテーション、日常生活の注意点に至るまで多岐に渡って検討し、結果はタイムリーに診療現場にフィードバックしています。骨転移キャンサーボードを始めたことで、診療科間での連携が深まると同時に医療スタッフの骨転移に対する意識が高まりました。その結果、院内で治療中の患者さんについては、病的骨折や脊髄麻痺をきたす前に放射線治療や手術を実施できるようになり、救急搬送や緊急手術を要するケースはほとんどなくなりました。

骨転移が進行するとどのような症状になるのでしょうか?

四肢、特に下肢の骨転移が進行すると、今にも骨折しそうな状態である「切迫骨折」を経て、軽微な外力で完全に骨折する「病的骨折」が生じ歩行困難となります。切迫骨折の状態で骨折予防の手術を行うと、病的骨折になった後に手術を行なった場合に比べ、出血が少ない、独歩できる率が高い、入院期間が短い、自宅退院率が高いなど周術期の治療成績が良いだけでなく、生命予後まで良好と報告されています。従って切迫骨折の状態までに治療介入を行い、病的骨折を予防する必要があります。切迫骨折の診断は、骨転移の部位、痛み、状態、大きさ を点数化し、その合計点で判定するMirelsスコアなどを参考に、実際に患者さんを診察して行っています。切迫骨折と診断した場合は、全身状態、原発のがん治療内容、生命予後、患者さんの希望などを考慮して、杖での免荷や生活指導、薬物療法、放射線治療、手術などから最適な治療法を選択するよう努めています。一方で「病的骨折」を起こした場合は、全身状態が許す限り手術の適応となります。

骨転移の手術内容、手術後の経過について教えてください。

四肢の骨転移の術式は姑息的手術と根治的手術の2種類に分類できます。姑息的手術は骨転移部の腫瘍は切除せず、骨転移で弱くなった部位を、骨折用の内固定材(主に髄内釘)で固定、補強する手術です。切迫骨折での髄内釘固定であれば、手術時間は1-2時間、術後数日で歩行訓練を開始できます。骨転移部位の腫瘍は残存していますので、術後2週以降に放射線治療を追加で実施します。姑息的手術は、手術の侵襲が少なく、入院やリハビリの期間が短く、日常生活に早く復帰できると共に、元々のがん治療を早く再開できることが利点で、選択されることが多い術式です。一方で姑息的手術は、骨破壊が広範な場合には選択できないことや、残存腫瘍の増大、インプラントの耐久性が問題になります。根治的手術は、腫瘍と周囲の正常骨を一塊として切除(広範切除)し、骨の欠損部位を腫瘍用人工関節などで再建する手術です。最も手術を行うことが多い大腿骨近位部(股関節部)であれば、手術時間は4-5時間、術後は数日で車椅子、約3週後より歩行訓練を開始します。根治的手術は、姑息的手術に比べると手術侵襲が大きく、入院期間は長くなります。一方で、生存率や局所制御が姑息手術より良好で、人工関節の耐久性も良いため、単発の転移や抗がん剤の効果が期待できる腫瘍など年単位の予後が予想される患者さんに適しています。最近では分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬など新規の薬物治療の導入により長期予後が期待できる患者さんが増えており、今後は根治的手術の適応が広がると思われます。

藤田医師、ありがとうございました。

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