診療部の紹介 -腫瘍内科-
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腫瘍内科は本来全ての悪性腫瘍の診断、治療のコーディネート、加えて固形がんへの薬物療法、緩和ケアとサバイバーシップの問題への対処など広汎な役割がある診療科です。現在は「兵庫県民に最新のがん薬物療法を提供する」をミッションとして活動しています。
がん薬物療法の適応があれば成人の固形がん全般に対応しておりますが、当科の専門性が特に高いのは乳がん・婦人科がん・頭頸部がん・希少がんです。消化器がん・呼吸器がんについては当院の消化器内科や呼吸器内科と積極的に連携しております。また、遺伝性腫瘍・がんゲノム医療についても当科のスタッフが中心的に関与しております。AYA(Adolescent&Young Adult)世代の患者さんへのサポートにも力を入れています。
標準治療とは臨床試験で繰り返し比較されて勝ち残った、「現在の世界チャンピオン」であり「今できるベストの治療」を意味します。当科がよく担当するがんへの標準治療を以下に示しますが、個々の患者さんの病状によってこれとは異なる治療が最善のことがあります。
・乳がん
周術期薬物療法(手術の前後の抗がん剤治療や分子標的治療)の大部分と進行・再発患者さんの薬物療法の一部を乳腺外科と分担して行っています。他院からご紹介頂く進行・再発の患者さんの薬物療法は腫瘍内科で担当しています。
周術期薬物療法については乳腺外科・放射線治療科・病理診断科と共同で最新のエビデンスや各種ガイドラインに基づいたマニュアルを作成し、なるべく治療強度を保った質の高い治療が提供できるよう努力しています。内容は複雑ですが一部抜粋して紹介します。
HER2陽性乳がんに対しては、抗HER2薬(トラスツズマブ・ペルツズマブ・T-DM1)を適切に投与することを重視した上で、再発リスクに応じてタキサン系抗がん剤とアンスラサイクリン系抗がん剤とを適宜単独又は逐次併用で投与しています。
HER2陰性乳がんに対しては、腫瘍の性質と再発リスクに応じてアンスラサイクリン系抗がん剤とタキサン系抗がん剤とを適宜単独又は逐次併用で投与しています。一部の患者さんにはdose dense 化学療法も行っております。一方でOncotypeDxのような精密なリスク評価に基づいた抗がん剤の省略を提案する場合もあります。
進行・再発患者さんの薬物療法も同様にエビデンス/ガイドラインに基づいて行いますが、生活の質(Quality of Life; QOL)を保つことをより重視して治療を行います。結果として選択肢は非常に多岐にわたりますので詳細は割愛します。
・婦人科がん
ご紹介頂いた患者さんの薬物療法を行っています。卵巣がん、子宮体がん、子宮頚がんいずれもガイドラインに基づいた標準治療を実施しています。初回治療ではカルボプラチン・パクリタキセル併用療法が中心ですが、卵巣癌ではベバシズマブ、オラパリブ、ニラパリブなどの分子標的治療薬も併用することがあります。再発卵巣癌ではリポゾーマルドキソルビシン、ゲムシタビン、ノギテカン、ドセタキセル、経口エトポシドなど多くの殺細胞抗がん剤が使用可能です。カルボプラチン過敏性反応に対する脱感作投与に力を入れており、院内・院外からご紹介頂き現在日本でトップクラスの実績を有しています。もちろん脱感作投与以外の標準治療についても積極的に受け入れていますのでお気軽にご相談ください。
・頭頸部がん
口腔外科が診療する患者さんの薬物療法全般と、頭頸部外科が診療する患者さんの薬物療法の一部を担当しています。初回治療ではシスプラチンやセツキシマブを用いた放射線同時併用治療、シスプラチン+5-FUやそれにドセタキセルを追加した治療などを行います。再発・転移がんの場合、ペンブロリズマブやニボルマブなどの免疫チェックポイント阻害薬を単独又は化学療法と併用しています。パクリタキセル毎週投与、セツキシマブ、TS-1なども使用可能です。
・希少がん
「がんかも知れない」状態からの診断、必要に応じて手術や放射線治療などの局所治療のコーディネート、薬物療法及びその間必要な支持療法/緩和療法と幅広く担当しています。薬物療法については標準治療が確立していない腫瘍がほとんどですが、原発不明がんや肉腫など専門家の間ではある程度共通認識がある腫瘍についてはそれに基づいて診療を行っています。がんゲノム医療を積極的に行っています。
過去5年の初診患者数(院外からの地域連携室経由でのご紹介、院内からのコンサルト、セカンドオピニオン、遺伝外来、がんゲノム医療外来での初診を含む)を図1に示します。おかげさまで毎年少しずつご紹介が増えてきています。
また、ご紹介頂いた患者さんの内訳を図2に示します。
当科が特に専門性を有している乳がん、希少がん、頭頸部がん、婦人科がんの患者さんが約8割を占めています。
現在標準治療とされている様々ながん薬物療法も、過去に行われたこのような臨床試験の結果確立されてきたものです。当科では確立された標準的ながん薬物療法を行いますが、まだまだ満足できるものではありません。そこで、より優れたがん薬物療法などの治療法の開発に積極的に取り組んでいます。それらの研究の一覧を下記にお示しします。なお、これらの臨床研究、臨床試験、治験は、当センターの倫理審査委員会や治験審査委員会で承認を受けています。
HER2陰性転移性乳癌に対するニボルマブ+ベバシズマブ+パクリタキセル併用療法の第 II 相試験
アベマシクリブ誘発性下痢に対するビフィズス菌整腸剤の予防効果およびトリメブチンマレイン酸塩の治療効果を検討する非盲検無作為化第二相試験
術前化学療法で腋窩リンパ節転移が陰性化した乳癌に対する領域リンパ節照射の意義を検証するランダム化第III相試験
アベマシクリブ関連薬剤性肺障害のネステッドケースコントロール研究
ホルモン受容体陽性/HER2陰性の進行または転移性乳癌女性患者を対象に、パルボシクリブ+タモキシフェン(±ゴセレリン)併用投与とプラセボ+タモキシフェン(±ゴセレリン)併用投与を比較する、アジア共同、国際、多施設、無作為化、二重盲検、プラセボ対照、並行群間比較第Ⅲ相試験付随研究
根治切除不能な甲状腺未分化がんに対するニボルマブとレンバチニブ併用療法の第Ⅱ相試験