鏡視下手術 -手術治療を行っている臓器について-
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食道は、「のど」の下からはじまり胸のなかをとおっておなかに至り胃につながる、食物の通り道となる管状の臓器です。
食道がんはその発生した部位によっておもに頸部食道がん、胸部食道がん、腹部食道がんに分類されますが、ここでは頻度の高い胸部食道がんの手術につきご紹介します。胸部食道がんの手術では、食道にできた腫瘍とともに、(頸部)胸部~腹部にわたって転移する可能性があるリンパ節の切除(郭清)を行う必要があり、胸、おなか双方の操作を必要とします。また当院を含めた多くの施設では、再建(切除した食道の代わりを作成すること)に胃を用いる方法を行っており、この場合くびの部分まで胃をもち上げてつなぎ合わせる操作を行います。
食道がんの鏡視下(内視鏡下)手術では、従来標準的に行われていた右開胸手術とちがい、胸腔鏡と呼ばれる器材を挿入して手術を行うため、まず胸の右側で必要な手術器材を通すために0.5~1cm程度の切開を5~6箇所に加えます。また腹部でも同じく0.5~1cm程度の小切開を、おヘソとその左右に計3箇所おき、当院では用手的補助のためおなかの上部に7~8cmの切開を追加してリンパ節郭清、再建操作を行っています。 さらに作成した再建用の胃を頸部でつなぎ合わせるため、くびの部分にも数cm~10cm程度のきずが入ることになります。
胸部の操作との関連、あるいは比較的侵襲の大きな手術であることからくる術後肺炎、縫い合わせた場所がうまく癒合しないために消化液が漏れる縫合不全、胸部のリンパ節郭清操作に関連した反回神経麻痺(誤嚥、嗄声=声がかれる)、などの合併症の可能性があります。
術後に合併症がなく順調に経過した場合、およそ6-7日程度で食事が取れるようになり、14日程度で退院となります。
胃はお腹の上の方にある大きな管腔臓器です。
胃の鏡視下手術では、腹腔鏡を挿入するためにへそを約2cm切開します。その後、必要な手術器材を通すために0.5~1cm程度の切開を4箇所に行ないます。臓器の切除とリンパ節郭清が完了した後に、ヘソの切開を約4cmに延長して身体の外に臓器を取り出します。
実際の手術では、腫瘍および転移する可能性があるリンパ節を充分に切除する(郭清といいます)ために、胃の3分の2以上または全てを切除します。切除後に残胃と十二指腸または小腸、全摘の場合は食道と小腸とを器械で縫い合わせます。この操作も全て鏡視下で施行します。
縫い合わせた場所がうまく癒合しないために消化液が漏れる縫合不全、胃の裏側にある膵臓から膵液がにじみ出てくる膵液瘻、お腹の中の癒着によって腸の通りが悪くなる腸閉塞、などを主とする合併症を稀に起こすことがあります。
術後に合併症がなく順調に経過した場合、およそ3-4日程度で食事が取れるようになり、10日程度で退院となります。
結腸はお腹の上下腹部、直腸は骨盤腔にある連続する管腔臓器です。
結腸・直腸の鏡視下手術では、腹腔鏡を挿入するためにへそを約2cm切開します。その後、必要な手術器材を通すために0.5~1cm程度の切開を4箇所に行います。剥離とリンパ節郭清が完了した後に、ヘソの切開を腫瘍のサイズに応じて延長します(大体は4cm程度)。
実際の手術では、腫瘍から十分に距離(結腸の場合は10cm、直腸の場合は2~3cm)をとり腸管を切除し、リンパ節が含まれる腸間膜と一括で切除します。切除後に結腸の場合は小開腹下もしくは鏡視下、直腸の場合は鏡視下で吻合します。
縫い合わせた場所がうまく癒合しないために消化液が漏れる縫合不全、お腹の中の癒着によって腸の通りが悪くなる腸閉塞、などを主とする合併症を稀に起こすことがあります。
術後に合併症がなく順調に経過した場合、およそ3-4日程度で食事が取れるようになり、10日程度で退院となります。
お腹の右上・横隔膜の下にあり、人体の中で最も大きな臓器です。
一部の術式(肝部分切除、肝外側区域切除)に対して、2010年に腹腔鏡下肝切除術が保険適応となりました。当院での肝臓の開腹手術でよく行われる切開は、みぞおちからへその上までの切開と、横の切開も必要とする大きな切開です。しかし、腹腔鏡下肝切除術では、腹腔鏡と必要な手術器材を通すために0.5~2cm程度の切開を4~6箇所に行ないます。切除が完了したあと、取り出す臓器の大きさによって切開創を延長して(多くの場合はへその切開創部)身体の外に臓器を取り出します。
肝臓を切ったところから胆汁が漏れる胆汁漏、横隔膜の下の肝臓を手術するので胸に水が溜まる胸水、とくに術前から肝機能が不良の方の場合はお腹の中に水が溜まる腹水、などの術後合併症が稀にあります。
術後に合併症がなく順調に経過した場合、手術翌日から食事が取れるようになり、1週間程度で退院となります。
膵臓は胃の裏(背側)にある実質臓器です。
良性の膵腫瘍(悪性化する可能性のあるものを含む)
膵臓の腹腔鏡下手術では、腹腔鏡を挿入するために臍を約2cm切開します。その後、必要な手術器材を通すために0.5~1.2cm程度の切開を4箇所に行ないます。臓器の切除が完了した後は、ヘソの切開を約5cmに延長して身体の外に臓器を取り出します。
実際の手術では、腫瘍を含めて膵臓の尾側を切除します。多くの場合、膵臓の尾側(左側)に接している脾臓も同時に摘出します。
膵臓を切離した部分が十分にくっつかずに膵臓から膵液がにじみ出てくる膵液瘻、お腹の中の癒着によって腸の通りが悪くなる腸閉塞などの合併症を起こすことがあります。また術後、糖尿病や肺炎などの感染症にも注意していく必要があります。
術後に合併症がなく順調に経過した場合、およそ2-3日程度で食事が取れるようになり、14日程度で退院となります。
腎臓はお腹の背中側に位置し、高さは腰のあたりで背骨の左右に一つずつある臓器です。
腎臓の腹腔鏡手術は、へそよりやや頭側の横腹に約2㎝の切開を行い内視鏡を挿入します。その後、体内を内視鏡で観察しながら、手術器材を通すために必要な1cm程度の切開を3~4箇所行ないます。近年では腹腔鏡手術が主流になってきており、当科でも腎臓の手術の8割以上を占めています。
がんが発生した方の腎臓(左腎、右腎のどちらか)をすべて摘出する場合が一般的です。ただし近年では、小さな腎がん(直径で4㎝以下)に対してはがんの部分のみを切除し腎臓は温存する腎部分切除術が増えてきています。部分切除では術後の腎機能低下が全摘出に比べて少ない利点があります。当科でも腹腔鏡手術による腎部分切除術を積極的に行っています。
腎臓は血流が多く出血しやすい臓器ですが輸血は多くの場合必要ありません。特に腹腔鏡手術では出血は少量のみです。手術のために切開した部位の感染もほとんどみられません。腎部分切除術では、腎臓を切開した際に内部の尿の通路が開放することがあり、術後に尿が体内に漏れることがありますが経過観察のみで通常止まります。片方の腎臓を摘出するため、術前に比べて腎機能が低下しますが日常の生活に支障はありません。
順調に経過した場合、翌日より歩行が可能で食事も取れるようになり、7~10日程度で退院します。術後、外来通院は3~6ヶ月ごとで約5年間、その後は1年ごとで計10年間の経過観察を行ないます。
腎盂は腎臓の中にあり、腎臓で作られた尿を受け取る袋状の臓器です。
尿管は腎盂の続きで、腎臓からでてお腹の中を通って膀胱につながる長い管状の臓器で、尿を腎臓から膀胱まで運びます。
腎がんと同じく開腹手術と腹腔鏡手術があります。腹腔鏡手術では、腎がんと同じく内視鏡および手術器具を通すために上腹部の横腹に数か所、1~2㎝の切開を行い、まず腎臓を剥離します。続けて約8㎝の切開を下腹部に行い尿管を膀胱まで剥離し腎、尿管をまとめて摘出します。近年では、多くの場合腹腔鏡手術が行われます。
がんを認める側の腎臓および尿管をすべて切除します。がんが大きい場合やリンパ節の腫れがある場合は、転移する可能性がある部位を充分に切除するために周囲のリンパ節も一緒に取り除きます。腫瘍進展の程度により、術後化学療法が必要になる場合があります。
腎臓は血流が多く出血しやすい臓器ですが、手術中の輸血は多くの場合必要ありません。特に腹腔鏡手術では少量のみです。手術のために切開した部位の感染もほとんどみられません。片方の腎臓を摘出するため、術前に比べて腎機能が低下しますが日常の生活に支障はありません。
順調に経過した場合、翌日より歩行が可能で食事も取れるようになります。手術の際に膀胱の一部を切開、縫合するため1週間後くらいに膀胱より尿の漏れがないことを確認の後に退院となります。術後、外来通院は3~6ヶ月ごとで約5年間、その後は1年ごとで計10年間の経過観察を行ないます。腎盂がん、尿管がんでは膀胱内再発が多くみられるため定期的な膀胱鏡検査が必要です。
前立腺は男性のみにある臓器で、膀胱の下に位置します。膀胱に貯められた尿は尿道を通って体外に排出されますが、前立腺は膀胱の真下で尿道を取り囲むように存在します。
当科では手術支援ロボット(ダヴィンチ)を用いた腹腔鏡手術が主に行われています。腹腔鏡手術では、へその上に2㎝の皮膚切開をおき内視鏡を挿入し、左右のお腹に手術器具挿入のための約1㎝の切開を扇状に4~5か所おきます。
前立腺をすべて一塊として切除します。加えてがんが広がりやすい精嚢、および転移の可能性のある前立腺周囲のリンパ節も切除します。前立腺を切除するとその部分の尿道もなくなるため、膀胱と尿道の断端は縫い合わせてつなぎ直します。
前立腺はお腹の下の最も奥に存在し、周囲に血管も多く手術の難しい臓器です。開腹手術では出血が多くなることも少なくありませんが、腹腔鏡手術が行われるようになり出血量は減少し輸血も必要としなくなっています。前立腺摘除後は膀胱と尿道を吻合しますが、その部分より術後に尿が漏れることがあります。尿道カテーテルを膀胱内に留置して置けば自然に閉鎖します。また、尿道には尿道括約筋が存在し排尿をコントロールしていますが、この筋肉は前立腺と接しているため、手術後に括約筋の働きが一時的に低下することがあります。これにより尿失禁がみられますが、通常、3~6か月程度で改善します。
順調に経過した場合、翌日より歩行が可能で食事も取れるようになります。術後1週間程度で尿道カテーテルを抜去、約2週間程度で退院となります。術後、外来通院は3~6ヶ月ごとで約5年間、その後は1年ごとで計10年間の経過観察を行ないます。
膀胱は下腹部の骨盤内に位置する袋状の臓器です。
経尿道的切除術は膀胱鏡を尿道から膀胱内に挿入し手術を行うため皮膚の切開は必要ありません。
経尿道的切除術は主に小さながんに対して行われる手術で、がんの部分のみを切除します。術後に切除した組織を顕微鏡で詳しく調べてがんの広がりを確認し、がんの残存が疑われる場合は追加の検査や治療が必要になります。
経尿道的切除術では、がんを深く切除するため、膀胱に穴が開くことがあります。通常、尿道カテーテルを膀胱内に留置しておけば自然に閉鎖します。
経尿道的切除術は翌日より歩行、食事が可能で、2~3日後に尿道カテーテルを抜去、5~7日ほどで退院となります。
肺は胸の中にある臓器です。心臓をはさんで右肺と左肺があります。
鏡視下手術は内容によって傷の位置や大きさが異なります。
肺は右肺が3つ(上葉、中葉、下葉)、左肺が2つ(上葉、下葉)の肺葉に分かれています。標準的な肺がんの手術では、腫瘍を残さず十分に取るために腫瘍ができた肺葉を切除し(例えば右上葉の肺がんであれば右上葉を切除)、さらに腫瘍ができた肺葉から転移しやすいリンパ節も一緒に取り除きます。腫瘍進展の程度により、標準より肺を多くとらなければならない場合や、気管支や肺の血管を形成しなければならない場合があります。また肺の機能がよくない等の理由から、肺機能を温存するために標準より肺を小さく切除する場合もあります。肺がんの進行度によっては再発予防のため術後に抗癌剤が必要になる場合があります。
出血、感染(創感染、肺炎、膿胸)、肺や気管支からの空気漏れ、間質性肺炎、肺塞栓症(いわゆるエコノミークラス症候群によって発症する疾患)、リンパ節摘出後のリンパ液の漏れ(乳糜胸)などが主にあげられます。命に関わるような重篤な合併症が起きる確率は約1%程度(全国平均、当院の成績では約0.6%)です。
術後に合併症がなく順調に経過した場合、手術の翌日に食事が取れるようになり、術後10日前後で退院します。術後、外来で約5年間の経過観察を行ないます。
子宮はお腹の下の方にある臓器です。
腹腔鏡下子宮全摘術では、腹腔鏡を挿入する道具を通すためにへそを約2cm切開します。その後、必要な手術器材を通すため必要な5mm-10mm程度の切開を下腹部に3箇所行ないます。子宮の切除が完了した後に、膣断端より身体の外に子宮を取り出します。
手術では、膣側より子宮を特殊な器具で把持して、腹腔鏡のカメラの映像を見ながら子宮の支持組織や血管を凝固切開の鉗子を用いて切断し、最後に膣管を切断します。子宮は膣から取り出し、膣断端を縫い合わせて閉鎖します。
術中出血量が多い場合は輸血を行います。腹腔鏡下に止血が困難な場合や他臓器の損傷が生じた場合は直ちに開腹手術に変更します。手術のために切開した部位(腹壁や膣断端)に感染を起こすことや、皮下気腫を起こすことがあります。また、術後の癒着によって腸閉塞を起こすことがあります。まれですが術後に血管内の血栓によって、肺梗塞や脳梗塞を起こすこともあります。
閉経前に卵巣を摘出した場合、術後更年期障害の症状が出現することがあります。
術後に合併症がなく順調に経過した場合、翌日から食事が取れるようになり、4-7日程度で退院します。術後、外来通院は1-3ヶ月ごとで、約6か月間の経過観察を行ないます。