がん治療について

手術 -麻酔-

手術

兵庫県立がんセンタートップページ > がん治療について > 手術 > 麻酔

兵庫県立がんセンターの麻酔について

麻酔について

手術の苦痛を小さくするために、痛みの少ない安全な麻酔を行なっています。

手術による痛みや苦痛をできるだけ小さくするためには、十分な鎮痛と手術による生体反応のコントロールが必要になります。
兵庫県立がんセンターの麻酔科では、局所麻酔薬や麻薬系鎮痛薬を組み合わせて、術後数日間の激しい痛みをコントロールするとともに、必要に応じて身体の水分異常や炎症反応などの全身症状を加療し、安楽な術後経過を過ごしていただけるように努めています。

全身麻酔について

静脈注射で投与する注射薬や肺から吸入する吸入麻酔薬を用いて、意識がない状態にする麻酔方法です。全身麻酔薬には鎮痛作用がほとんどないので、単独では手術時の痛みを取り除くことができません。
そのため、手術中には血圧が上昇したり無意識に身体が動いたりすることが、しばしば起きてしまいます。充分な麻薬系鎮痛薬や局所麻酔薬によって手術の痛みが脳に伝わらないようにしたうえで全身麻酔薬を投与すると、血圧や心拍数も安定し、身体が動くこともなくなります。

手術をさらに実施しやすくするために、筋弛緩薬といわれる筋肉を麻痺させる薬を一緒に使います。筋弛緩薬によって身体の力が抜けた状態になると、中の状態を観察しやすくなって、より安全に手術を行えます。これらの麻酔薬は、投与をやめると速やかに作用が消失するので、手術終了後10分程度で麻酔から目覚めることができます。

硬膜外麻酔について

背骨(脊椎)の中には硬膜という細長い袋があり、その中に脳脊髄液と脊髄が収まっています。硬膜外麻酔は、硬膜の外側(硬膜外腔)まで針を進めて局所麻酔薬を注入し、脊髄から出てくる神経を麻痺させる方法です。

硬膜外麻酔を行なうには、針を指す部分を局所麻酔したうえで、生理食塩液を軽く注入しながら専用の針を背中から脊椎の間に向けて穿刺します。局所麻酔時に、チクリとした痛みがありますが、強いものではありません。針先が硬膜外腔まで進むと、生理食塩液を注入する抵抗がなくなります。手術中に局所麻酔薬を追加できるよう、硬膜外腔に入った針から、細い管(カテーテル)を硬膜外腔に挿入します。これにより、手術時間が長くなっても、硬膜外麻酔が切れて痛くなるようなことはなくなります。

硬膜外麻酔は、手術の傷の痛みを効果的に止めることができるので、手術後も少量の局所麻酔薬を持続注入して、傷の痛みのコントロール(硬膜外鎮痛)に使用します。
胸やお腹の手術は手術後の傷の痛みが強いので、硬膜外鎮痛が大変効果的です。痛みは、およそ3日程度で和らいでくるので、硬膜外鎮痛も手術後3日ほどで終了します。
硬膜外鎮痛を止めると、傷の痛みが増したように感じるかもしれませんが、薬が投与されなくなったせいなので心配はいりません。

脊椎麻酔について

局所麻酔下に硬膜内側の脳脊髄液まで細い針を進めて、局所麻酔薬を注入する方法です。硬膜外麻酔よりも強く神経が麻痺します。脊椎麻酔が胸まで効いてしまうと、呼吸をする筋肉もうごかなくなるため、上腹部や胸の手術にはあまり用いられません。下腹部や脚の手術に有効な麻酔方法です。麻酔後は、脚が無くなったような感じがあり、脚を動かそうとしても動かない状態になりますが、3時間程度で徐々に回復します。

脊椎麻酔を追加できるようにするためには、カテーテルが通る太い針で硬膜を穿刺する必要があります。
太い針で硬膜に穴を開けると麻酔後に頭痛が起きやすくなるので、追加が必要になるような長時間の手術では全身麻酔を併用するようにしています。

末梢神経ブロックについて

硬膜外麻酔や脊椎麻酔は硬い骨の中に針を進めるので、血管を損傷して出血を起こすと、血腫による圧迫で神経障害が起きることがあります。このため、血が固まりにくい状態の方には実施できません。
この場合は、背骨から出た神経を局所麻酔薬で麻痺させる方法があります。骨の中ではないので、出血が起きても神経が圧迫されることが少ないからです。術後痛が強いと予想される手や腕または脚の手術にしばしば実施されます。胸やお腹の手術でも、脊椎から出た直後の神経を麻痺させることで痛みを取ることができます。末梢神経ブロックによる鎮痛効果は、硬膜外麻酔ほど強力ではないので、全身麻酔と組み合わせて用いられることが一般的です。

膀胱鏡による膀胱がんの手術では、がんを切除する際の電気刺激で脚が動くことがあるため、脚を動かなくする目的で末梢神経ブロックを行なうことがあります。

局所麻酔について

体表近くの病変で、小さな傷で手術ができる場合に用いられます。身体の組織に局所麻酔薬を浸潤させて、部分的な麻酔を行ないます。
局所麻酔薬による手や脚の麻痺は起きないので、外来通院のままでの手術でも実施されます。

麻酔の合併症について

麻酔による合併症はあってはならないことです。兵庫県立がんセンター麻酔科も、皆様が安全に治療を受けていただけるよう、日頃から安全な麻酔の実施に努めています。しかしながら、薬の副作用や針の穿刺による神経損傷などのために、ごく稀ではありますが合併症が発生する場合があります。

全身麻酔で最も多い合併症は歯が折れることです。気管に管を入れるには肺への入口を目視確認する必要があり、喉の奥を見るための専用器具を口に入れてこじ開けるようにします。この時、歯の根元が歯槽膿漏などで少しゆるんでいると、こじ開ける力によって、歯が抜けてしまうことがあります。こういうことが起きないよう、手術前には歯科医師や麻酔科医師が歯の状態を確認し、できるだけ歯を折らないように必要な器材を準備します。
また、気管に入れた管によって声帯が麻痺し、声がでにくくなる(嗄声)こともごく稀におこることがあります。麻酔中には、自律神経の状態が覚醒時と変化するため、ごく稀に心停止や重篤な不整脈が生じることもあります。さらに、呼吸状態も変化するため、酸素がうまく取り込めない状態になることもあります。
そのため、麻酔中は心電図や酸素の量を測定するセンサーを装着して血圧測定も定期的に行ない、心臓や呼吸の状態を確認し続けます。

硬膜外麻酔では、穿刺針による出血が神経麻痺を起こすことがあります。硬膜外穿刺針は太いので、出血が起きやすくなるため、血が止まりにくい方には実施を控えます。また、誤って硬膜外針が硬膜を貫通してしまうと、手術後に強い頭痛が起こることがあります。頭痛は通常1週間程度で徐々に回復します。

脊椎麻酔でも硬膜穿刺による頭痛が起こることがありますが、非常に細い針を使用しているので発生頻度は著しく低いです。脊椎麻酔では、急速な神経遮断による血圧低下や心停止、呼吸筋麻痺による呼吸障害も起こる場合がありますが、現在使用している局所麻酔薬での発生頻度は極めて低いものです。

末梢神経ブロックでは局所麻酔薬の使用量が多いので、誤って血管内に局所麻酔薬を注入すると中毒症状を起こして、一過性の痙攣や意識障害が起こることがあります。注入に際しては、状態を観察しながら慎重に実施しています。

鎮静について

麻酔時や手術中は必要に応じて少量の鎮静薬を投与し、ウトウトした状態になるようにしています。局所麻酔に先行して鎮静を行なうことにより、局所麻酔の痛みを和らげることができます。適正な鎮静によって不安感も少なくなり、手術中同じ姿勢を取り続ける苦痛も軽減できます。

麻酔や手術に関して不安を強く感じておられるのであれば、遠慮なく麻酔科医師にご相談ください。
できるだけ安楽に手術を受けていただけるよう、最善の方法を選択させていただきます。

麻酔中のモニタリングについて

麻酔を安全に実施するために、手術中はいくつもの生体情報も監視します。心電図・血圧・酸素の取り込み具合(経皮的酸素飽和度)は全例で実施されます。さらに、大手術の症例では、動脈に針を留置して血圧を連続的に監視したり、心臓近くまで管(中心静脈カテーテル)を入れて、心臓にかかる圧を測定したりします。血圧が変動しやすい手術や心臓に重症な合併症がある方では、心臓から送り出される血液の量(心拍出量)を測定しながら麻酔薬の量を調整することもあります。
皆様が安全に手術を終えることができるよう、充分な全身状態の監視下に適正な麻酔の維持を行えるようにしています。